ポイント4:「第14次五カ年計画」と2035年にたどり着く場所

 これからの5年間、中国は「国内大循環」という新たな国家戦略を掲げつつ、内需重視の成長モデルを追求すべく奔走していくでしょう。

 私が注目した目標としては、同計画が終了する2025年までに、都市化率を65%に上げる、その過程で、人口300万人以下の都市においては、外部から移住してきた人民に対する戸籍の制限を撤廃するというものです。また、依然として2億人の「農民工」(農村部から都市部への出稼ぎ労働者)が都市戸籍を得られない、言い換えれば、農村戸籍のまま都市部で労働しているが故に、それ相応の公共福祉を享受できない状況を解消するといった政策が掲げられました。

 中国では現在65歳以上の人口が全人口に占める割合が12%を超えました。政府は「中レベルの高齢化段階に入っていく」という危機感をあらわにしています。少子高齢化という、かなり確定的な未来に向かう中、労働や移住に関する各種制限を撤廃することで、懸念される労働者不足といった不安要素に対応しようとしているのでしょう。

 特筆に値するのが、「第14次五カ年計画」における平均GDP成長率目標が公表されなかった点です。「第12次」では7%、「第13次」では6.5%以上と公表されました。五カ年計画綱要起草の歴史の中で、初めて「合理的区域内で保持し、その時々の状況を見ながら各年で提起する」という文言が記述されました。

 この点について、前出の統計局局長級幹部に聞いてみると、「最大の理由は、これからの5年間に関しては、特に内外の環境・情勢をめぐる不確実性が読めないということ。不確実性という最大の特徴を前に、5年間の平均成長率をまとめて出すよりも、各年で出していったほうが、政策の柔軟性という意味であらゆるリスクに対処しやすいと考えている」という答えが返ってきました。と同時に、「GDPだけを漠然と追求するのではなく、失業率やエネルギー使用効率、環境への配慮といった指標を重視していくという高質量発展を掲げる新時代に入っていくという姿勢を打ち出していく」とも付け加えています。実際の結果が掲げた目標に到達されなかった場合にマーケットに与え得るショック、および政権への打撃を回避するための対応策と理解できるでしょう。

 2035年までに、「社会主義現代化を基本的に実現する」「一人当たりのGDPを中級先進国のレベルまで向上させる」「中産階級を顕著に拡大していく」といった目標も掲げました。これからの15年で、習近平(シー・ジンピン)総書記(以下、敬称略)が掲げるように、GDPが倍増し、現在1万ドルを超えた辺りの一人当たりGDPが2万ドルに達し、現在4億人いる中間層が、人口の半分(7億人程度)に達するような状況になれば、「世界の市場」としての中国の魅力は増していくでしょう。もちろん、前提として、政治的に安定し、経済において改革や開放が進行し、市民社会としての包容性や透明性が向上していくという前提が成立していくこともまた不可欠です。