ポイント2:景気の下支えへの懸念は残る。各種経済目標は「弱気」の設定

「6.0%以上」もしかりですが、各種経済目標は低めに設定された感があります。最大の背景として、やはり海外における新型コロナウイルスの抑制や経済の回復状況に読めない部分があると考えているのでしょう。

 例えば、今年の調査失業率は「5.5%前後」と設定されました。新型コロナの打撃を受け、2.3%という経済成長に終わった昨年の失業率は5.6%で、政府当局は「年末には5.2%まで回復した」と宣伝していたにもかかわらず、「弱気」の目標設定に見えます。

 また、都市部で新たに創出される雇用人数は「1,100万人以上」と設定されました。コロナ前は1,300万人以上を、昨年も5月に延期されて開催された全人代で「900万人以上」という目標を掲げながら、最終的には1,186万人を創出しました。にもかかわらず、この数字は「弱気」に映るのです。

 さらに、今年のGDP比の財政赤字率は3.2%。昨年の3.7%よりは下方修正され、また昨年発行した1兆元(約16兆円)に上る「コロナ特別国債」も今年は発行しないと明言しました。とはいうものの、3.2%という数字は、当局として、依然不安要素が残る中、6%以上という「最低ライン」の目標を達成するために、適宜財政出動し、政府主導によるインフラ投資などを通じて景気を下支えしていく必要があると考えている現状が見て取れます。

 景気の過熱や資産バブルの形成は警戒しつつも、「積極的な財政政策と穏健かつ柔軟な金融政策」を通じて、経済を安定的に回していくという方針の表れだといえるでしょう。

 中国共産党結党百周年という「政治の季節」に当たる今年、党指導部には“安全運転”が最重要課題になってくるのです。不動産や株式市場を含め、マーケットにショックが走るような状況は何としても避けようとするでしょう。

ポイント3:科学技術分野の基礎研究重視で「技術立国」を目指す

 これまでも本連載でたびたび指摘してきたように、中国共産党は、「新型コロナ×米中対立」が顕在化した昨年を通じて、中国が直面する「世界」が新たなステージに入ったと総括しています。対米戦略的競争関係が長期化、構造化、こう着化する見込みが濃厚な中、技術力の自立自強、自給自足を実現しなければならない、さもなければ、国際政治が引き金となって、中国経済の安定的、持続的発展に必要不可欠なサプライチェーンやバリューチェーンがいつ遮断されるか分からないという危機感が露呈していたのが、今回の全人代でした。

 そして、「中国製造2025」を彷彿(ほうふつ)させるような「科学技術イノベーション2030」を提唱したのです。この分野における基礎研究をこれから「10年行動計画」を持って推し進めていきます。今年、中央政府の科学技術基礎研究への支出を昨年よりも10.6%増やし、第14次五カ年計画の間、国有企業や民間企業、大学やシンクタンクを含めた社会全体として、この分野への投資が年平均7.0%以上増えることを目標としています。

 さらに、R&D(研究開発)分野における基礎研究経費の支出割合は、2020年には6.16%でしたが、これからの5年間、平均8.0%以上に増加させるとのこと。長期的視野で技術力の向上を目標とし、そこに国家戦略としての投資をしていくという政治的意思の裏返しであるといえます。

「国際科学技術イノベーションセンター」「総合性国家科学技術センター」「国家試験室」などを創設し、「肝心な核心的技術を発展させるプロジェクトをしっかりと実践していく」(李克強)とのこと。まさに、米国との戦略的競争関係が長期化する将来を見込んで、技術力で自立することが中国の国家安全と経済発展にとって不可欠なのだと考えている現状が見て取れるのです。