習近平は「デジタル経済」をどう捉えているのか?

 社会主義市場経済体制下にある中国では、絶対的権力を持つ共産党、特に党の指導部が何をどう考えているかという点が、マーケットや世論の動向を含め、非常に大きな動力をもたらします。その意味で、まずは習近平総書記(以下敬称略)の最近の発言を引用してみましょう。

 昨年11月、APEC(アジア太平洋経済協力会議)で基調講演を発表した習近平は、「デジタル経済」にピンポイントで言及しました。

「デジタル経済とは、世界にとって将来的な発展の方向性である。イノベーションは、アジア太平洋地域の経済成長にとっての翼になる。APECが掲げるインターネット、デジタル経済のロードマップを実践し、新技術の伝播と運用を促進し、デジタルインフラ建設を強化し、各国間に存在するデジタルギャップを解消すべきである。中国は、各国がデジタル技術によるコロナ抑制と経済再生の経験を共有し、デジタルビジネス環境を最適化し、デジタル経済の潜在力を放出し、アジア太平洋経済の復興に新たな動力を注入すべきだと提唱する」

 中国の党、政府、軍、中央、地方、官、民を問わず、最高指導者である習近平の「鶴の一声」によって、ありとあらゆる手法を通じてデジタル化・経済を推し進めていくのが必至の状況。政府官僚や各自治体は、デジタル化の進行具合が評価につながるという意味でプレッシャーを感じているはずです。逆に民間やマーケットのプレーヤーは、この分野に全力で取り組み、収益を上げるための「お上からのお墨付き」を得たと理解し、勢いづくでしょう。

 中国がまずは国内でデジタル経済をどう実践し、そのうえで、国境を越えてどのようなパフォーマンスをしていくか、「デジタル化」という課題において、中国と他国の間でルールやスタンダードといった点で問題や齟齬(そご)が生じるのか否かといったあたりが焦点になるのでしょう。

 ここで指摘しておきたいのが、習近平率いる共産党指導部は、デジタルを、自らが優位性や潜在力を発揮できる分野だと戦略的に捉えているという点です。

 伝統的な製造業や金融業、企業のブランドや商品の品質といった意味で言えば、中国は後進国、あるいは新興国であり、あくまでも欧米や日本、韓国や台湾などをキャッチアップ(追いかける)する立場にあります。中国の政府や企業もそれを自覚しています。

 一方、5G(第5世代移動通信システム)、ビッグデータ、AI(人工知能)、EV(電気自動車)、EC(電子商取引)などは新しい分野であり、欧米先進国も中国も、スタートラインは一緒という認識があります。それならば、先進国とも同等に戦える、マーケットをリードできる、場合によっては、ルールやスタンダードの構築で主導権を握れると、官民一体でもくろんでいるのです。

 中国がデジタル化、デジタル経済を「挙国一致」で重視する動機と背景がここにあるのです。

 中国共産党の国家統治という意味で、極めて重要な役割を果たすのが宣伝機関ですが、2018年11月8日、党の立場や政策を代弁・宣伝する立場にある新華社通信が、「ビル・ゲイツ氏が、中国のデジタル化は世界の発展をリードすると表明」と題した記事を配信し、各メディアも大々的に転載しています。同記事によれば、ゲイツ氏は「どこの経済のデジタル化発展が最も進んでいるかと言えば、それは間違いなく中国だろう」と発言したそうです。

 このように、共産党は、国際社会で影響力のある機関(例えば世界銀行や国際通貨基金)、企業(例えばゴールドマンサックスやマッキンゼー)、人物(例えばビル・ゲイツやウォーレン・バフェット)の発言を引用、利用しながら、中国の政府・企業努力を海外にアピールしつつ、国内では各方面のプレーヤーにメッセージ(圧力や奨励)を植え付けていくわけです。