中国人民はデジタル化を受け入れるか?

 答えは疑いなくイエスでしょう。

 私の個人的な観察や体験からしても、中国の人々のデジタル化への適応度は非常に高いです。適応しているというよりは、率先して、アナログよりもデジタルを歓迎、活用しているという印象を受けます。

 仕事のやり方として、リモートはコロナ前から普遍的でしたし、オンライン教育もビジネス、産業としてすでに成立していました。官民問わず、日常業務のなかで、私の周りで書類を印刷している人間は皆無に近いです(党や政府の公式文書は別)。

 交通渋滞や環境汚染といった事情もあり、スマートフォンを駆使して購買・郵送する、レストランに注文し、配達してもらうといった生活様式、キャッシュレス消費も当たり前。金融や医療といったサービスの「現場」も急速にデジタル化していっています。

 人々は、そうしなければやっていけない、生きていけない、時代の波についていけないから適応するのではなく、それが便利だから、そのほうが効率的で、時間節約や収益拡大に役立つからやっているのです。現在、政府が試験的、段階的に推し進めているデジタル人民元も、少なくとも人々の生活という意味では、何の抵抗にも遭わないでしょう。

 現在、中国はまだ春節の期間にありますが、中原地帯にある内陸省・河南省で農業を営む知人(男性、53歳)と最近話をしました。彼の年収は8万元(約130万円)くらい。野菜全般を作っているようです。

 彼に「農業デジタル化」について何か思うところはあるか聞くと、「農業の未来は、AI、5G、バイオテクノロジーが決める」と断言し、約1時間、延々と自らが考えているところをマシンガントークで語ってきました。

 中学しか卒業していない彼ですら、習近平からのメッセージをくみ取り、デジタル化が政治的に安全で、ビジネスとしてもうかるものと認識し、試行錯誤を重ねているのです。彼のような人間は中国ではまったく氷山の一角であり、ゴマンといるでしょう。

 今後、中国デジタル経済と世界との対話、グローバルマーケットとの関係・連動という観点からすると、やはり肝になるのは、権力を持った党・政府が、デジタルという分野をどう使うかにほかなりません。

 共産党はこれまでも、これからも、AIやビッグデータを駆使して、コロナを抑制し、ガバナンス力を高め、社会を安定させようとするでしょう。問題は、その過程で、特に民間企業の商品とサービスとの関わりのなかで、どこまで透明性を担保し、説明責任を果たすかにかかっていると言えます。

 仮に、この点において、共産党が、海外のマーケット参入者を納得させられるような回答や方式を可視化できるのであれば、ゲイツ氏が言うように、中国のデジタル化は、世界経済をリードしていくほどの潜在力を持ち合わせていると私は思います。