※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「2024年前半を振り返る。楽天証券25周年フェスで考えた中国経済の「風の読み方、吹かれ方」」
2024年前半の中国情勢を振り返る:迷走する中国経済
先週末、東京都内の東京国際フォーラムで開催された「楽天証券25th ANNIVERSARY FES」に参加してきました。フェスは2日間にわたり、私は1日目(7月6日)午後のセッション「世界マーケットの最新論点!風の読み方、吹かれ方」にパネリストとして登壇させていただきました。炎天下にもかかわらず、非常に多くの方が会場に駆けつけてくださっているのが印象的でした。リラックスした面持ちで笑顔の方。真剣にメモを取られている方。子供連れで来られている方。多種多様な「投資家」がそれぞれの思いで参加されていると感じましたし、日本のマーケットがますます注目され、盛り上がっていく機運を実感することができました。
セッションでは主に中国のことをお話ししたわけですが、ほかのパネリストの方とのやり取りを含め、登壇を通じて、自分自身の中で整理された考えや今後の見通しなどが生まれたこともあり、本連載に反映し、読者の皆さまと共有したく思います。
セッションの冒頭では、2024年前半を振り返る場面がありました。本連載でも度々レビューしてきましたが、私は、2024年の中国経済は依然として「迷走」しているという表現を使いました。中国政府は今年の経済成長率目標を5.0%前後に設定しています。1-3月期は5.3%増でした(統計の信ぴょう性は置いておいて)。来週月曜日、7月15日に発表される4-6月期の数値は見ものです。
本連載でも適宜紹介しているので、ここでは詳細には踏み込みませんが、個人消費、工業生産、貿易、失業率、投資といった分野の統計の推移を俯瞰(ふかん)しても、中国経済は「ゼロコロナ」でダメージを食らった最悪の状況は乗り越えていると思います。一方、デフレ基調はいまだ続いていますし、何より、不動産不況が経済全体の足を引っ張っている構造に変わりはありません。
要するに、IMF(国際通貨基金)や世界銀行といった国際機関も2024年の中国経済成長率を上方修正する中、中国経済は表面的には改善や期待値の向上がみられるものの、中身や内訳をのぞき込むと、まだまだ課題が山積しているというのが実態だと思われます。
(最新の発表によると、IMFは、今年4月時点の4.6%から5.0%に、世銀は2023年12月時点の4.5%から4.8%に上方修正している)
そして私の理解では、それを誰よりも深刻に認識しているのが中国政府自身です。
2024年後半の中国経済を展望する:ファンダメンタルズと政策の効果
同じパネリストとして登壇した楽天証券経済研究所チーフ・エコノミストの愛宕伸康さんから、経済の「ファンダメンタルズ」(経済の基礎的条件)に関する言及がありました。国や企業などの経済状況を表す指標を指しますが、愛宕さんからは、複雑で難しいけれども、個人投資家の方々も、マーケットを観察し、判断する上で、経済指標をしっかり見ることの重要性が説かれました。
私も全くその通りだと思いました。
と同時に、この論理を中国経済へ当てはめると、何が言えるだろうかと壇上で考えていました。その上で、私がコメントしたのは、「中国政府はおそらく、自国経済のファンダメンタルズに対しては一定の自信を持っているだろう」という点です。
前述したように、不動産不況やデフレ、少子化、米中対立、地政学リスクなどさまざまな不安要素はあるものの、中国政府は自国経済の潜在成長率を5.0~5.3%程度と認識しているように、中国には市場や企業の潜在力や成長性、人材、産業構造、先端技術、イノベーション、消費者の購買力、労働生産性など、あらゆる角度から未来を見据えるとき、中国経済には持続可能な成長を追求するだけのファンダメンタルズがある程度備わっている、というのが中国政府の立場であり、それを国内外で、市場や世論に対して繰り返し発信しているのが現状だと思います。
その意味で、私が2024年の下半期で注目しているのが、中国政府が景気を下支えるために打ち出している財政政策、金融政策、そして特に、不動産不況からの脱却のために発表した緩和策や支援策(過去のレポート「不動産不況脱却に向けた緩和策を政府が発表。中国経済は回復できるのか」2024年5月30日参照)がどこまで功を奏するのか、という点です。
セッションでも指摘しましたが、中国政府は景気回復に向けて、やることをやっていないわけではないのです。これから毎年発行していくという1兆元(約20兆円)の「超長期国債」、利下げを含めた金融緩和、企業に対する減税、不動産市場に関わる金融機関、地方政府、不動産ディベロッパー、購買者への包括的な支援を含め、できることは可能な限りやっている、というのが実態だと私は理解しています。
問題は、その上で結果が出るかという点でしょう。私自身、中高生時代は陸上中長距離をしていて、いまも市民ランナーとしてマラソンに取り組んでいますが、一生懸命練習した上で結果が出ないのと、大した練習もしていないのに結果が出ないのでは、受けるショックの次元が異なるのです。中国政府に関して言えば、(政治にも関わる構造的課題にメスを入れているとは言えないものの)問題や矛盾を放置しているわけではなく、やれることはやっているのです。その上で、結果が出るのかどうか、下半期はそこに注目していきたいと思います。
中国市場をめぐる「風の読み方、吹かれ方」:やっぱり不動産
私が登壇したセッションは、世界マーケットを解読する上での「風の読み方と吹かれ方」という文学的なタイトルがつけられていました。私も最初は意味がよく分からなかったので、主催者や司会者に確認をすると、要するに、マーケットに吹かれている風をどう読むか、その上で、そこに向き合う側がどう付き合うか(=吹かれるか)という問いでした。
私は中国情勢の分析や研究をなりわいとしてきましたから、中国のマーケットを見る上で、どこに注目すべきなのかという観点から答えることにしました。私が会場に足を運んでくれた方、オンライン上でご覧いただいていた方に伝えたかったことは二つありました。
一つ目が、日本株や米国株に投資をしていて、中国(関連)株には投資していない方であっても、中国は見ておく必要があるということ。
「中国経済がクシャミをすれば、日本経済が風邪をひく」「台湾有事が緊迫化すれば、マーケットが吹っ飛ぶ」というのは抽象論ではなく、現実です。世界第二の経済大国であり、ヒト、モノ、カネという複合的観点からも影響力を強め、深める中国の動向を注視しながら、投資活動に従事する必要があると思います。
二つ目が、中国市場をめぐる「風」を読むとき、やはり最大の注目点は不動産であるということ。以前も本連載で紹介しましたが、中国においては、GDP(国内総生産)の約3割、投資の約4割、国民の資産運用の約6割が不動産関連といわれます。
短期的に中国の景気動向がどう推移するかという次元をはるかに超えて、中長期的に、中国人はどれだけのお金を持つにいたるのか、中国市場の構造はどうなっていくのか、中国経済はどこへ向かうのか、そして、そんな中国と日本を含めた国際社会はどう付き合っていくべきなのか、といったテーマにつながっていきます。
その意味で、不動産市場を鏡に中国経済、市場を観察、分析するアプローチは(それだけでは限界がありますが)正攻法だと私は考えています。