1.金融緩和

「金融が緩和状態にあること」はバブルが形成されるための「必要条件」だ。バブルは、借金が投資に回ることで発生するのだから、少なくとも大規模なバブルは、借金がしやすい環境、即ち金融緩和状態でなければ発生しない。

 一方、借金による投資は(短期的には信用取引を、長期の借金は不動産投資を想起されたい)投資対象が値下がりすると返済が苦しくなる、リスク・ポジションとして保有し続けることが難しくなりやすい、相場的には「弱いポジション」である。資産価格が値下がりに転じると、資産の所有者は資産を換金したがるし、資産保有者にファイナンスを付けている主体も返済を迫る。これが、バブルの崩壊過程で資産価格が急激に値下がりしやすい理由だ。

 1980年代後半に形成された日本のバブルは、バブルの持つ諸性質をフルセットで備えた典型的かつ大型のバブルだったが、日銀による数次に亘る公定歩合の引き下げの下で育った。公定歩合は1988年2月に2.5%まで下がって、1989年の5月に3.25%に引き上げられるまで、当時としては非常識なレベルの低金利が保たれる超金融緩和状態だった。

 尚、金融政策が引き締め方向に転換しても、「直ぐに」バブルが崩壊する訳ではない。そもそも、金融引き締めの初期は金融が緩和状態にあるし、金利が上昇に転じると「借り急ぎ」の心理が働いて信用が拡大する場合もある。日本の株価は1989年末まで上昇したし、2007年のサブプライム問題から2008年のリーマンショックを経て世界的金融危機に至るアメリカの大バブルでもサブプライム問題の手前ではFRBによる段階的な政策金利引き上げがあった。

 現在、日米を含む先進各国の中央銀行の政策は超緩和的だが、政策金利がゼロまで低下すると、中央銀行の政策だけでは、信用が拡大してマネーサプライが増えて景気の刺激とインフレへの誘導が達成されるメカニズムが働かない。しかし、新型コロナへの対策として大規模な財政政策が発動されていることで資金需要が発生して、金融政策が後押しされる効果が発生している。

 気の進まない話だが、「現在、コロナのおかげで株価が上がっている」と言える面が大いにある。残念ながら筆者には、「いつ」と「幾ら」が分からないが、直近の株価上昇の構造は「コロナ・バブル」と名付けてもいいかも知れない。但し、株価上昇の背景は「バブル的」だが、現在の株価が中期的に維持できないくらい高い「バブル水準」であるのかどうかについては、別の検討を要する。

 中央銀行に加えて政府が財政政策で後押しして信用拡大に積極的な今、バブル形成の「必要条件」は満たされている。