3.儲ける小悪党の存在

「儲ける小悪党」とはこなれない言い方だが、バブルが育つためには、「信用を拡大し、投資を促進する」ことをサポートする会社や人間が必要だ。

 例えば、サブプライム・ローンの拡大には、サブプライム・ローンをセールスしてボーナスが増える金融マン、証券化商品の組成とトレードで儲かる金融マンなど、違法ではないとしても、「他人にリスクを負わせることで自分が儲ける」ことで稼ぐ人々が関わっていた。合法だとしても経済倫理的に些か問題を感じるような人々だ。バブルの過程にあっては、よく見るとバブルに関わって異様に儲けている「少し悪い人」がいるものだ。彼らの存在は、人間社会のある種の面白みでもあるのだが、「小悪党」と呼ぶことにする。

 日本のバブルの場合も、不動産融資を拡大するために無理をした銀行員もいたし、不動産開発案件を成立させるために暗躍した「地上げ屋」などもいた。日本の銀行員は、米国の金融マンほど手柄とボーナスが直結していないが、長期的な終身雇用を前提とする彼らには行内の出世が十分強力なモチベーションだった。

 彼らのビジネス行動の多くは合法だったが、ビジネス倫理的に疑問を感じる場合が少なくなかった。中には受託資産運用の「握り」のような違法行為に関わった金融マンも少なくない。皆、大なり小なり悪いとは思いつつも、「会社のため」という名分を笠に着て実は「自分のため」でもある行動に精を出した。

 現状は、どうか。

 株式市場が活況を呈することは金融マンにとって悪いことではないが、今、バブルに関わる形で金融マンが特別な行動によって儲けているようには思えない(筆者が気づいていないだけかも知れないが)。

 但し、金融マンではないが、米国企業のCEOたちは、株価に強く連動した報酬を取りながら、社債を発行して自社株買いを行うような自己利益の追求を行っているように見える。今のところ、株主にとって自社株買いのような企業行動は望ましいので、株主からの文句は出にくいが、「会社のワーカー集団」と「株主及び利害的に株主に買収された経営者」の経済格差が大きく開くことになる。長期的には、ワーカー集団が格差にどう反応するかの問題が心配だ。

 日本企業の資本政策やCEOの報酬は米国ほど極端に多額ではなく、米国的な観点で株主や投資家が求める企業統治的については感覚的に2周以上の周回遅れだが、経営層の報酬は近年上昇傾向にある。

 現状はどうか。

 今のところ、自分の利益のために信用拡大とセットの投資を拡販して儲けるようなバブル生成マシーン的な主体で特別なものは見当たらないが、後から振り返ると、当面マクロ的には適切な財政支出が、ミクロ的には偏った利益誘導によって歪められていたことが分かるのかも知れない。今は中止されているが、「Go To」と名の付いた一連のキャンペーンには小悪党的な業者と政治家の存在を感じなくもない。