「台湾侵攻」は中国のデメリットになる

 中国動向の重要性を再確認した上で、本題に戻ります。

 昨年末、東京を拠点に長年中国市場を見てきたベテラン投資家からも、前出の質問を受けました。

 彼は、中国共産党が台湾へ侵攻するメリットはなく、仮にそれをした場合に、中国自身が失う利益や信用は計りしれない、それよりも、「現状維持」を先延ばしにし、中国自身が真の意味で国際社会、そして台湾から尊敬される国になることを通じて、将来のある時点で、双方が何らかの形で一緒になるのが得策だという分析をしていました。

 全く同感です。そうあるべきです。

 中国の株式市場に投資をしている彼の立場からすれば、仮に中国が本当に台湾へ侵攻してしまえば、それは困るどころの話ではありません。

 中華圏で唯一民主主義を制度的に実現した台湾を、自らの政治的目標のために、流血を伴う武力で統一しようとする中国(共産党)の国際的信用は地に落ちます。西側諸国を中心に、各国は中国への制裁措置を取るのが必至です。日本も蚊帳の外にはいられないでしょう。中国はすでに世界第2の経済大国、最大の貿易国になっており、制裁がもたらすインパクトは、1989年時の天安門事件後とは比べものにならないでしょう。波及度も予測できません。

 国家安全法を強行採択し、「一国二制度」が有名無実化しつつある香港の状況を顧みれば、中国共産党が武力統一を正当化する手段として挙げる根拠が説得力を持つことはないでしょう。中国という14億人のマーケットが、「世界の工場」としても、「世界の市場」としても、少なくとも短期的には機能不全に陥り、米国の政策に依拠するまでもなく、中国経済と世界経済が真の意味でディカップリング(切り離し)されるのです。その後、中国に拠点を持つ3万以上の日本企業、中国でモノを売ったり、原材料を調達したりしてきた関連企業が、拠点や資本の撤収、オルタナティブの模索に悪戦苦闘する光景は想像に難くありません。

 ベテラン投資家の彼が所属する会社が巨額の損失を計上するのは必至で、上司からは「なぜそんな危険な市場へ投資をしていたのだ!」と激怒され、彼自身の立場も悪くなり、真剣に身の振り方を考えざるを得なくなるでしょう。