実は「自社株買い」には続きがあった!

企業が自社株買いを実施すると、それは株高の要因になるというのが一般的な解説です。当コラムでも以前のコラムにてこれを取り上げました。

企業が自社株買いにより自己株式を取得すると、1株当たり純利益を計算する際の発行済株式数が減少します。そのため、1株当たりの価値が上昇し、1株当たり純利益が増加することになります。1株当たり純利益が増加すれば、PERは低下しますので、株価の上昇要因となります。

また、自己株式は純資産のマイナス項目のため、自己株式を取得すると純資産が減少し、ROEの改善にもつながります。これも株価が上昇する一因です。

さらには、市場に出回っている株を吸収することによる需給の改善も期待できます。

でも、実は自社株買いの話はこれで終わりではありません。この先にまだ続きがあったのです。

自社株買いの最終的なゴールは「処分」か「消却」の2つ

企業は自社株買いを実施したあと、取得した自己株式をどのようにしているのでしょうか。ひとまずはそのまま保有を続けるのが一般的ですが、最終的な処理方法としては2つしかありません。それは「処分」と「消却」です。

自己株式の処分とは、言い換えれば売却です。企業自身が保有していた自己株式を、他に売却することです。自己株式の消却とは、文字通り保有している自己株式を消し去ってしまうことです。

実は、自己株式を「処分」するのと「消却」するのとでは、意味合いが全く違います。そして、株価に対する影響も大きく異なってくるのです。

例えば、8月29日に自己株式の処分を発表した日新製鋼(5413)の株価は、週明け9月1日には前週末比8%安の1,012円まで下落しました。

翌2日の日本経済新聞の記事では、発行済株式数の約9%の自己株式の売り出しによる1株当たりの価値低下や需給の緩和を警戒した売りが膨らんだ、と解説されています。

増加したはずの1株当たり当期純利益が自己株式の処分で逆に減少?

結論から申し上げますと、自己株式の「処分」は株価下落の要因となります。上の日新製鋼のケースはまさにこれに該当します。

自己株式の取得は1株当たり当期純利益の増加やROEの改善につながり、株価上昇の要因となることは上で説明したとおりです。

しかし、この「1株当たり当期純利益の増加」や「ROEの改善」は、あくまでも計算上のものでしかないのです。ですから、自己株式の取得によって株価が上昇したとしても、油断はできません。

具体例を挙げて時系列で説明してみましょう。なお、当期純利益は毎年1億円で変わりないものとします。

  1. A社(発行済株式総数100万株)は、2年前に20万株の自社株買いを行いました。

自社株買い実施前:発行済株式数(※)100万株

    1株当たり当期純利益:1億円÷100万株=100円

自社株買い実施後:発行済株式数80万株

    1株当たり当期純利益:1億円÷80万株=125円

自社株買いにより1株当たり当期純利益が100円から125円に増加し、PERも低下しますので、株価の上昇が期待できます。

(※)1株当たり当期純利益計算上のもの。以下同様

  1. A社は今年になり、自己株式として保有している20万株を公募形式により処分することとしました。

自己株式処分前:発行済株式数80万株

    1株当たり当期純利益:1億円÷80万株=125円

自己株式処分後:発行済株式数100万株

    1株当たり当期純利益:1億円÷100万株=100円

このように、自己株式の処分によって1株当たり当期純利益が125円から100円に減少し、PERも上昇しますので、株価下落の恐れが高まります。