増加したはずの1株当たり当期純利益が自己株式の処分で逆に減少?

結論から申し上げますと、自己株式の「処分」は株価下落の要因となります。上の日新製鋼のケースはまさにこれに該当します。

自己株式の取得は1株当たり当期純利益の増加やROEの改善につながり、株価上昇の要因となることは上で説明したとおりです。

しかし、この「1株当たり当期純利益の増加」や「ROEの改善」は、あくまでも計算上のものでしかないのです。ですから、自己株式の取得によって株価が上昇したとしても、油断はできません。

具体例を挙げて時系列で説明してみましょう。なお、当期純利益は毎年1億円で変わりないものとします。

  1. A社(発行済株式総数100万株)は、2年前に20万株の自社株買いを行いました。

自社株買い実施前:発行済株式数(※)100万株

    1株当たり当期純利益:1億円÷100万株=100円

自社株買い実施後:発行済株式数80万株

    1株当たり当期純利益:1億円÷80万株=125円

自社株買いにより1株当たり当期純利益が100円から125円に増加し、PERも低下しますので、株価の上昇が期待できます。

(※)1株当たり当期純利益計算上のもの。以下同様

  1. A社は今年になり、自己株式として保有している20万株を公募形式により処分することとしました。

自己株式処分前:発行済株式数80万株

    1株当たり当期純利益:1億円÷80万株=125円

自己株式処分後:発行済株式数100万株

    1株当たり当期純利益:1億円÷100万株=100円

このように、自己株式の処分によって1株当たり当期純利益が125円から100円に減少し、PERも上昇しますので、株価下落の恐れが高まります。