シェール開発過程の全体像を理解することが重要

 次に「量」ですが、量の面を確認する上で、以下のシェール開発までの流れを理解する必要があります。以下は、シェール主要地区における開発過程の全体像です。

 図:シェール開発過程の全体像(イメージ)

 

出所:筆者作成

 図のとおり、掘削する場所を探す“探索”、掘削(穴掘りであり、原油の生産ではない)や原油の生産ができるように井戸を整備する仕上げをする“開発”、そして“生産”です。

 開発は通常およそ4~6カ月、あるいはそれ以上かかると言われています。この間に、掘削が行われ、仕上げが行われ、生産が始まります。減少傾向にある“稼働リグ数”は、 開発の前工程である掘削に関わるデータです。生産とは直接的な関りはありません。この点が、“リグが減っても、原油生産量が増加する”ことを理解する上で重要な点です。

 注目したいのは、掘削が完了した“掘削済井戸数”と、仕上げが完了した“仕上げ済井数”です(仕上げとは、掘削した井戸対し、壁面をセメントで固めたり、坑道の末端で小規模な爆発を起こした上で、砂や水、少量の化学物質を高圧で注入する、原油の生産を開始する最終的な準備をすることです)。

 図:米シェール主要地区の掘削済井戸数と仕上げ済井戸数(7地区合計) 

 

単位:基
出所:EIA(米エネルギー省)のデータをもとに筆者作成

 これらの2つの指標の動きから、シェール業者等が現在、以下のような意思を持っていることがうかがえます。

1.[掘削済井戸の減少]
 開発段階の前工程である掘削が完了した井戸が減少している。仕上げを行う井戸を、新たに掘削をした井戸から、掘削を終えているが仕上げが行われていないDUC(掘削済・未仕上げ井戸 drilled but uncompleted)に徐々に切り替え、掘削にかける費用を抑える意思がある。
2.[仕上げ済井戸数の増加]
 開発段階で最も費用が掛かり、かつ、完了すれば原油の生産を開始できる仕上げの実施は、開発にかけた資金を回収するために原油生産を開始することを前提としているとみられる。仕上げが完了した井戸の増加が続いていることは、今後も原油生産量を増加させる意思がある。

 つまり、シェール業者等は、今後もシェール主要地区での原油生産を拡大させる意思があり、かつ、掘削に関わるコストを抑えようとしているとみられ、そのために、掘削済井戸数が減少し、仕上げ済井戸数が増加し続けているのだと考えられます。

 このように考えれば、稼働リグ数の減少と同地区の原油生産量の増加が同時に起きていることが理解できます。

 以下は、掘削済井戸数から仕上げ済井戸数を差し引いた、DUCです。DUCが減少傾向になる条件は、
【1】掘削済井戸数が増加し、仕上げ済井戸数がそれ以上に増加する場合
【2】掘削済井戸数が減少し、仕上げ済井戸数がそれよりも軽度に減少する場合
【3】掘削済井戸数が減少し、仕上げ済井戸数が増加する場合

のいずれかです。

 現在は先述のとおり、現在は掘削済井戸数が減少し、仕上げ済井戸数が増加していますので、条件【3】に当てはまります。

 図:米シェール主要地区のDUCの数 

 

単位:基
出所:EIA(米エネルギー省)のデータをもとに筆者作成

 DUCはその名前のとおり“掘削済”であるため、DUCとなった時点で掘削(開発段階の前工程)に使われるリグが稼働する工程はすでに終わっています。

 このため、稼働リグ数がいくら減少しても(前工程がいくら行われなくなっても)、これまでに積み上げられたDUCの取り崩しが行われている限り、生産量が減少することはありません。

 DUCの取り崩しとは、積み上げられたDUCに対して、原油生産を開始することを前提に行われる“仕上げ”(開発段階の後工程)を行うことです。

 リグは原油の生産施設ではなく、単なる穴掘り機であるという、“リグとは何か?”について理解が深まれば、リグ数減少と生産量増加の背景が分かります。

 米国の原油生産量が増加している背景は、ざっくり言えば“質”と“量”の両方が、原油生産量が増加する方向に向いているためと言えます。

 新規1油井あたりの原油生産量が増加し(質が向上)、記録的に積み上がった(量が潤沢な)DUCの取り崩しが進むことで、リグが減少しても生産量が増加しているわけです。