冒頭のケースの場合
先程の友人は、GRIF並に行儀のいいポートフォリオを持っていた。
では、冒頭のようなポートフォリオを持った別の友人から相談を受けるとどうなるか。同じ手順でやってみよう。
この人のポートフォリオを再掲する。
【友人のポートフォリオ(再掲)】 ・社員持ち株会(東証一部上場企業) 20% ・通貨選択型(ブラジルレアル)毎月分配型投信 15% ・国内株式インデックス・ファンド(TOPIX連動) 10% ・銀行預金(普通預金) 55% |
まず、リスクを求める。
35×0.2+20×0.15+20×0.1+0×0.55=12
なので、12%もある。自社株が個別株式であってリスクが大きいことの影響が主原因だが、実質的に株式6割に相当するリスクを持っていることを伝えると、友人は驚くだろう。
次に、期待リターンだ。
5×0.2+0×0.15+5×0.1+0×0.55=1.5
となるので、1.5%だ。
最大損失率は、
1.5 - 2×12= -22.5
だから、22.5%である。運用資産全体が3,000万円なら最大損失額は675万円と計算されることになる。
さて、読者なら、この人にどうアドバイスするだろうか?
以下は、仮にこの人が「かなり親しい友人」(はっきり物を言っても大丈夫な相手)だとした場合に、筆者が言いそうなことを考えてみた。あくまでも、一例として読んでみて欲しい。
「率直に言って、かなり問題のあるポートフォリオだな。いくつか意見があるよ。
まず、概要を数字でまとめると、全体の期待リターンは年率1.5%で、これに対してリスクが一般に使われている年率標準偏差で言うと12%もある。最悪の場合の損失額は一年後に675万円くらいを覚悟しなければならない計算だ。
これは、大まかに言うと株式の投資信託を6割くらい持っているのとほぼ同等のリスクだ。しかし、期待リターンは、株式6割のポートフォリオと較べると半分しかない。厳密に言うと、株式投信6割のポートフォリオよりも最大損失額は少し大きい。
馬鹿馬鹿しいと思わない?
リスクを大きくしている主な原因は、社員持ち株会でお持ちの自社株だ。これは、個別の株式一銘柄だから価値の変動が激しい。一部上場企業なので計算上のリスクは35%としたけど、会社が傾いた場合には給料やボーナスだって減るのだから、実質的なリスクはもっと大きいと思うべきだ。
自分で株をたくさん持ってもいいと思えるような会社に勤めているのは大変結構なことで羨ましいけれども、リアルな金融の問題としては、自分が勤めている会社の株をたくさん持ち続けるのは疑問だ。売った方がいいよ。
ところで、ブラジルレアルコースの毎月分配型投信を、あなたがどうして持っているの?
ああ、窓口で勧められてしまったのか。しかし、ブラジルレアルのような新興国通貨のリスクは株価指数並みに大きいし、この種の商品は手数料が高い。これは、文句なしに即刻解約した方がいい。ついでに言うと、この投信を売った金融機関とはきっぱり縁を切る方がいい。あなたのためを思って売った物でないことは明らかなのだから、そうするべきだ。
TOPIXのインデックス・ファンドをETF(上場投資信託)で持っているのはいいと思う。調べて買ったのは偉い! これは、このままでいい。
せっかくネット証券に口座を開いたのだから、対面営業の窓口で買った投資信託はさっさと売って、ネット証券に移した方がいいよ。私としては、楽天証券でないのが残念だけど、友人としてそう思うね。もちろん、楽天証券に口座を開いてくれてもいいよ!
さて、どうしようか?
一案としては、自社株と毎月分配型の投資信託は速やかに売るとして、TOPIX連動のETFはこのまま残そう。売ってできたお金と、あと預金にあるお金を少し外国株と国内株のインデックス・ファンドに回すといいのではないかな。
今と同じくらいのリスクで良ければ、全体の6割を内外の株式に投資するインデックス・ファンドにすると、期待リターンが3%に倍増するよ。今のところ、外国株6割、国内株4割を勧めることが多いので参考にして欲しい。
あと、厳密に言うと、一行1,000万円を超える預金は持たない方がいいから、一部を個人向け国債にするか、ネット証券と連携したネット銀行の預金にでも置くか、処置を考えると尚いい。
仮に、内外のインデックス・ファンドに対する投資を全体の50%に抑えると、今よりもリスクが小さくなるし、しかし期待リターンは2.5%に増える。リスクとリターンの両方が改善するから、取りあえずはこれで行こうか?
いずれにしても、改善の余地は大ありだと思うけど、あなたがどれくらいの大きさのリスクを取るのが適当か、が大事な問題だよな…」
親しい友人が相手ならこんな会話になりそうな気がするが、もちろん最適なアドバイスとその結果は相手の状況次第だ。