動揺するレバレッジドローン市場

 米当局がしきりにレバレッジドローン市場やクレジット市場のリスクを警告しているが、この市場の“非流動性”が話題となっている。

【インクジェットカートリッジから携帯電話までさまざまなもののリサイクルを手掛けるクローバー・テクノロジーズのローンの価格が急落した。

 同社が5年前に借り入れた6億9,300万ドル(約750億円)のローンがこの1週間に、約48時間の間にほぼ3分の1の価値を失った。その驚異的な値下がりで、企業向けローンの売買を手掛ける熟練の投資家さえも損失を被った。


 クローバーのローンの規模はウォール街の基準では特に大きくはないが、その急激で大幅な値下がりはあらためて市場に警鐘を鳴らした。規制当局は数カ月前から警告を発しているが、クローバーの件は、世界的な利回り追求が借り入れ増大と緩い引き受け基準をもたらしているレバレッジドローン市場のリスクを浮き彫りにする事例となった。取引が薄くなる可能性のある市場で、非流動性が突然クレジット市場の主要な懸念材料となっている時期に、レバレッジの高い企業向けのローンがいかに急速に値崩れし得るかをこの例は示している。

 流動性の低さを考えると、買い手が「同時に売ろうとすれば、価格は急激に下落し得る」と、債務再編を専門とする投資銀行GLCアドバイザーズのソーレン・レイナートソン氏が述べた。】(2019年7月17日 ブルームバーグ『レバレッジドローンの価格急落、クレジット市場の重大リスクが鮮明に』)

 一方、ブルームバーグの報道によると、日本勢のイールドハンティングは相変わらず活発なようだ。これについて、米ボストン連銀のローゼングレン総裁は「金融のシステミックな不安定性を予防するための規制政策を増強するよう、米国と日本は検討すべきだ」と、警鐘を鳴らしている。「日本の銀行の一部は懸念すべきほど高水準のCLO(ローン担保証券)を取得している。低利回り環境と相まった利回り追求を狙ったと受け止められる動きは、将来的に万が一世界的なリセッション(景気後退)に見舞われた場合、日本の銀行が引き続きレジリエンスを保ったままでいられるか重要な疑問を生じさせる」と、警戒感をにじませているという。

【米国のCLO市場は今年初めに最大の買い手にほぼ別れを告げたが、ここにきて日本の農林中央金庫が戻ってきた。

 事情に詳しい複数の関係者によると、農林中金は4月に市場の監視が強まった中で劇的に縮小していたCLOの購入を再び始めた。レバレッジドローンをまとめて証券化したCLOのマネジャーは農林中金が不在の中、ほかに買い意欲のある投資家を見いだしたと関係者は匿名を条件に話した。

 ブルームバーグの試算によると、農林中金はつい最近まで、6,000億ドル(約65兆円)規模のCLO市場で圧倒的なプレゼンスを持ち、欧米では昨年10-12月(第4四半期)に最高格付けのCLOの最大半分を購入していた。それが記録的な市場の成長を支えた半面、金融庁などの監視に拍車を掛け、同市場における農林中金の並外れた役割に関心が集まり、最近の投資縮小につながっていた。しかし農林中金不在の中でもCLOの発行は記録的なペースに近い水準で推移。利回りを渇望する投資家の間での人気の高さを浮き彫りにしている。】(2019年7月9日 ブルームバーグ 『米CLO市場に農林中金戻る-当局の監視強化でいったん投資縮小後』)

 ミンスキー・モーメント(信用循環または景気循環において、投資家が投機によって生じた債務スパイラルによりキャッシュフロー問題を抱えるポイント)では、突然かつ急激な崩壊、市場流動性における急激な落ち込みが発生する。中央銀行が人為的に作っている流動性があるうちに、手仕舞うのは相場の鉄則であろう。

「これまでは、乱高下するフラッシュ・クラッシュや債券利回りと株価の急な変化にとどまっている。だが、時間が経つにつれて、中央銀行が短期変動率を抑制しようとする流動性創出が長引けば長引くほど、中央銀行は株式、債券そしてその他資産市場の価格バブルをあおってしまう。より多くの投資家が、過大評価された、債券のような一段と非流動的な資産を積み上げるにつれて、長期的なクラッシュのリスクが増加する。これは金融危機への政策対応の皮肉な結果である。マクロ流動性はブームとバブルをあおっている。だが、市場の非流動性が、究極的には暴落と崩壊の引き金を引くだろう」とヌリエル・ルービニが指摘する『市場の非流動性』に注意すべき局面が、そろそろ到来するとみているファンド運用者は少なくない。