ゴーン元会長は2005年以降、日産よりルノーを見て経営するようになった可能性も

 私は、30年以上前から、日産自動車の決算説明会に出席し、企業価値について分析してきました。ゴーン元会長が経営するようになった1999年以降は、経営説明会でゴーン元会長のプレゼンを何回も聞きました。

 あくまでも私の個人的見解ですが、ゴーン元会長が、日産自動車の株主価値を高めるのに大きな功績があったのは、1999年から2005年まででした。2005年にルノーの会長を兼務するようになってからは、少しずつ日産ではなくルノーとフランス政府の方を向いて仕事をするようになっていったと考えています。そんな元会長に経営の全権を与えてしまったのが、日産自動車の問題と思います。

 ゴーン元会長の発言で、私がよく覚えているのは、「人件費の高い国には投資しない」です。日本ではなく、メキシコなど新興国に積極投資していく戦略を説明するときに出ていた言葉です。それは、日産が生き残るために必要なことだったかもしれません。

 ところが、近年は、人件費が高いフランスに生産を移していく戦略をとっていました。それは、当時聞いた話から考えると、整合性がありません。フランス政府の意向が、ゴーン元会長の経営の舵取りに影響していた可能性があります。

 日産自動車にとって、欧州は所在地別セグメント利益で、赤字です。欧州は成長性が高くない上に、ドイツ車が強く、日本車は苦戦を強いられています。一方、成長性が高いアジアや、収益を稼ぎやすい米国では、日本車は健闘しています。したがって、日本メーカーの経営の力点は、徐々に欧州を離れつつあります。本田は、先日、英国での生産から撤退することを発表しています。

 日産は、ルノーとのしがらみで、欧州を重視せざるを得ない状況にあり、その分、ハンディを負っていると言えます。

参考:日産・トヨタ・本田の所在地別の営業利益率比較:2019年3月期第3四半期まで(2018年4月~12月)実績

出所:各社決算短信より楽天証券経済研究所が作成。▲は赤字を示す。日産は日本基準、トヨタは米国基準、本田はIFRS(国際財務報告基準)で財務諸表を作成しているので、利益率を単純比較はできない。ただ、所在地別セグメント利益は、3社とも日本の営業利益に近い概念で作成しているので、一定の比較可能性はある

参考:ブリヂストンの所在地別の営業利益率:2018年12月期通期実績

出所:同社の決算補足資料