表面上は産油国に寄り添った減産継続

 資料1に総会の決定事項をまとめました。

 結論は「減産継続」。原油価格の上昇を是とする産油国に寄り添う、それを否定し続けてきたトランプ大統領の意に反する決断といえます。

資料1:第175回OPEC定時総会と第5回OPEC・非OPEC閣僚会議の決定事項(各種報道より筆者作成)

・2019年1月以降も「減産継続」

・OPEC・非OPECの24カ国で、2018年10月に比べて合計日量120万バレル削減する

・適用期間は2019年1月から6月まで

・2019年4月にOPEC定時総会およびOPEC・非OPEC閣僚会議を開き、条件を見直す

・OPECは日量80万バレル(2.4%)削減

・OPEC加盟国数は2019年1月1日付けでカタールが脱退して14になる

・非OPEC(ロシア等10カ国)は日量40万バレル(2.0%)削減

・現行の減産(2017年1月開始2018年12月終了)はうまく機能したと評価
(以下報道ベース)

・サウジの削減量は日量25万バレル、ロシアの削減量は日量23万バレル

・減産免除国はイラン、リビア、ベネズエラ、ナイジェリアの4カ国

 

 今総会時のサウジのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相の服装は、これまでの総会で見られたアラブ人特有のいでたちとは異なり、スーツ姿でした。

これは、「石油の国・米国の武器油輸入国の大臣」ではなく、「外貨獲得を優先・原油価格の上昇を目指すビジネスマン」として総会に臨む、という今回の総会におけるサウジの姿勢を示す狙いがあったと筆者は考えています。

 

トランプ大統領とロシアを忖度して地位低下の産油国の雄・サウジ

 今回の総会での結論やそのプロセスを振り返ってみると、OPECのリーダーであるサウジがトランプ大統領とロシアを忖度(そんたく)した可能性が浮上します。

予想を上回る減産ながら、実際の規模はトランプ対応か

 図1のように2019年1月以降、2018年10月の生産量から120万バレルの削減が行われれば、OPECと減産に参加する非OPEC10カ国の原油生産量の合計は日量5,070万バレル程度になるとみられます。

図1:減産に参加する25カ国の原油生産量(筆者推計) 

単位:百万バレル/日量 
出所:OPECおよびEIA(米エネルギー省)のデータより筆者作成
注:OPEC25カ国の生産量に2次供給を含めず
注:非OPECのバーレーン、スーダン、ブルネイの生産量は非OPEC10カ国の生産量の3%として推計

 この日量5,070万バレルの規模がどの程度なのかについては、図1のとおり現行の減産(2017年1月から2018年12月)における最低水準程度の規模と考えられます。

 原油価格の維持に現行の減産がうまく寄与していた時期もあったため、総会の決定通りに減産が行われれば、世界の石油需給バランスを供給過剰から供給不足にさせ、増加した世界の石油在庫を削減させる可能性が出てきます。その意味では、今回の減産継続決定が原油価格の上昇要因になる可能性があります。

 ただ図1のとおり、2018年5月ごろから顕著になった2019年1月以降の減産継続を見込んだ「駆け込み増産」の生産分があり、これを2019年1月以降の減産継続分で削減するに留まる規模であることが分かります。

「予想を上回る減産規模」と報じられているものの、実際のところ、減産体制全体の生産量としては現行の減産とほぼ変わらないと言えます。

「現行の減産とほぼ変わらない」という点は、ある意味トランプ大統領への忖度だと考えられます。減産は継続するが、その規模は現状程度であるという、いわば言い訳をしながら減産継続をした面があると筆者は考えています。

 総会後の記者会見でのサウジのエネルギー相の立ち位置は、センターではありませんでした。このことは、サウジが減産の継続決定を主導しなかったという印象を世界に与える狙いがあったとみられます。

減産削減幅へのロシアの難色に、サウジが忖度か

 また、OPECとともに減産に参加してきた非OPEC諸国10カ国のリーダー格であるロシアについて、翌日の閣僚会議を前にウィーンにいたロシアのノバク・エネルギー相はロシアに一時帰国。サンクトペテルブルグにいるプーチン大統領と協議し、7日の閣僚会議に戻ってくる場面がみられました。

 ロシアとOPEC(特にサウジ)間で、減産継続時の生産量の削減幅について折り合いがつかず、ロシアのエネルギー相が急遽帰国し、プーチン大統領と協議したと報道されています。
実際の削減幅は資料1のとおり、サウジが日量25万バレル、ロシアが日量23万バレルと、サウジの削減幅の方が大きいことが分かります。

 詳細は後述しますが、生産量を削減するということは、獲得できたはずの外貨を放棄する意味を持つため、減産参加国の中でも削減量の大きい国は小さい国に比べて大きな負担を負っているといえます。

 同じ石油大国であるこの2カ国の削減幅について、サウジの削減幅がロシアの削減幅よりも大きくなったのは、サウジのロシアへの忖度であることは否定できません。

 ところで、OPEC総会直前の11月30日(金)、サウジの実質的なリーダーであるムハンマド皇太子とロシアのプーチン大統領がG20(20カ国・地域)首脳会議で顔を合わせた際、ハイタッチ後、笑顔でがっちりと握手をしているシーンがありました。

 このシーンは翌週のOPEC総会、OPEC・非OPEC閣僚会議で、外貨獲得を有利にする原油価格の上昇を実現するための「減産継続」方針決定を、サウジとロシアが大筋合意していたことを想像させます。

 しかし、総会開催中にロシアのエネルギー相がウィーンとサンクトペテルブルクを往復しましたが、削減幅の協議で難が生じ、ロシアの削減幅をサウジよりも少なくするなど、最終的にはサウジがロシアを忖度して総会を終えたとみられます。