OPEC(石油輸出国機構)総会が12月6日、終わりました。その後「予想を超える規模で減産継続が決定」と報道されました。

 決定した内容や決定に至るプロセスを考えれば、決して楽観視できる総会ではなかったと筆者は考えています。逆に、今回の総会を機に確認された不安要素が今後の原油相場の下落要因になる可能性があります。

 今回は、この重要なイベントで出されたOPECの公式声明と各種報道から、筆者なりの分析と、そこから考えられる要点を述べます。

 

減産継続でOPEC総会終了。予想を超える規模の減産実施へ

 日本時間2018年12月6日(木)18時ごろ、OPECの本部があるオーストリア・ウィーンで第175回OPEC定時総会が始まりました。この総会は、目先、そして来年以降の原油相場を占う上で重要なイベントだと考えられていました。

 そして同日21時ごろ、大方の予想に反し、減産を継続するか否かの結論が翌7日(金)の第5回OPEC・非OPEC閣僚会議に持ち越しになったことが記者会見によって明らかになりました。
 もともと今回のOPEC総会が注目された理由は、2017年1月から始まった産油国の原油の減産()終了期限が今月だったため、2019年1月以降の産油国の対応、つまり減産継続か、時限到来で終了かを決めなければならない総会だったからです。

※原油の減産:複数の産油国が意図的に同時に生産量を減少させて、世界の需給バランスを引き締めること。原油価格の上昇要因となり得る。

 そして、結論が持ち越された7日の第5回OPEC・非OPEC閣僚会議で「2019年1月から6カ月間、減産継続」が決定しました。その減産は、事前予想を超える規模で行われることになりました。

 

ツイートでOPEC総会にも介入するトランプ大統領

 実はこの決定がなされるOPEC総会前日の5日(水)、トランプ米大統領は「OPECが総会で減産継続を決定せず、この半年間行ってきた増産を今後も継続することを望む、誰も高い原油価格を必要としていないし、見たくない」とツイート。総会で減産継続を決定しないよう釘を刺していました。

 トランプ大統領は特にこの半年間、原油相場への関与を急速に強めてきました。一貫して、原油価格の上昇やそれを誘発する策を講じようとするOPECを批判し、原油価格の下落は、世界中で減税のような効果があると主張。また同大統領は、10月に発生したサウジアラビア人記者殺害事件に端を発した国際的な信用力低下という最悪な事態にあるサウジを助け、介入度を高めていました。

 世界の原油生産の40%強を占めているOPEC。そのリーダーであるサウジが10月の高値からおよそ30%下落した原油価格を支えるために減産継続を優先するのか。あるいは、原油価格の下落を望むトランプ大統領の意向を汲むのか。こういった背景から、今回の総会は特に注目が集まっていました。

 

表面上は産油国に寄り添った減産継続

 資料1に総会の決定事項をまとめました。

 結論は「減産継続」。原油価格の上昇を是とする産油国に寄り添う、それを否定し続けてきたトランプ大統領の意に反する決断といえます。

資料1:第175回OPEC定時総会と第5回OPEC・非OPEC閣僚会議の決定事項(各種報道より筆者作成)

・2019年1月以降も「減産継続」

・OPEC・非OPECの24カ国で、2018年10月に比べて合計日量120万バレル削減する

・適用期間は2019年1月から6月まで

・2019年4月にOPEC定時総会およびOPEC・非OPEC閣僚会議を開き、条件を見直す

・OPECは日量80万バレル(2.4%)削減

・OPEC加盟国数は2019年1月1日付けでカタールが脱退して14になる

・非OPEC(ロシア等10カ国)は日量40万バレル(2.0%)削減

・現行の減産(2017年1月開始2018年12月終了)はうまく機能したと評価
(以下報道ベース)

・サウジの削減量は日量25万バレル、ロシアの削減量は日量23万バレル

・減産免除国はイラン、リビア、ベネズエラ、ナイジェリアの4カ国

 

 今総会時のサウジのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相の服装は、これまでの総会で見られたアラブ人特有のいでたちとは異なり、スーツ姿でした。

これは、「石油の国・米国の武器油輸入国の大臣」ではなく、「外貨獲得を優先・原油価格の上昇を目指すビジネスマン」として総会に臨む、という今回の総会におけるサウジの姿勢を示す狙いがあったと筆者は考えています。

 

トランプ大統領とロシアを忖度して地位低下の産油国の雄・サウジ

 今回の総会での結論やそのプロセスを振り返ってみると、OPECのリーダーであるサウジがトランプ大統領とロシアを忖度(そんたく)した可能性が浮上します。

予想を上回る減産ながら、実際の規模はトランプ対応か

 図1のように2019年1月以降、2018年10月の生産量から120万バレルの削減が行われれば、OPECと減産に参加する非OPEC10カ国の原油生産量の合計は日量5,070万バレル程度になるとみられます。

図1:減産に参加する25カ国の原油生産量(筆者推計) 

単位:百万バレル/日量 
出所:OPECおよびEIA(米エネルギー省)のデータより筆者作成
注:OPEC25カ国の生産量に2次供給を含めず
注:非OPECのバーレーン、スーダン、ブルネイの生産量は非OPEC10カ国の生産量の3%として推計

 この日量5,070万バレルの規模がどの程度なのかについては、図1のとおり現行の減産(2017年1月から2018年12月)における最低水準程度の規模と考えられます。

 原油価格の維持に現行の減産がうまく寄与していた時期もあったため、総会の決定通りに減産が行われれば、世界の石油需給バランスを供給過剰から供給不足にさせ、増加した世界の石油在庫を削減させる可能性が出てきます。その意味では、今回の減産継続決定が原油価格の上昇要因になる可能性があります。

 ただ図1のとおり、2018年5月ごろから顕著になった2019年1月以降の減産継続を見込んだ「駆け込み増産」の生産分があり、これを2019年1月以降の減産継続分で削減するに留まる規模であることが分かります。

「予想を上回る減産規模」と報じられているものの、実際のところ、減産体制全体の生産量としては現行の減産とほぼ変わらないと言えます。

「現行の減産とほぼ変わらない」という点は、ある意味トランプ大統領への忖度だと考えられます。減産は継続するが、その規模は現状程度であるという、いわば言い訳をしながら減産継続をした面があると筆者は考えています。

 総会後の記者会見でのサウジのエネルギー相の立ち位置は、センターではありませんでした。このことは、サウジが減産の継続決定を主導しなかったという印象を世界に与える狙いがあったとみられます。

減産削減幅へのロシアの難色に、サウジが忖度か

 また、OPECとともに減産に参加してきた非OPEC諸国10カ国のリーダー格であるロシアについて、翌日の閣僚会議を前にウィーンにいたロシアのノバク・エネルギー相はロシアに一時帰国。サンクトペテルブルグにいるプーチン大統領と協議し、7日の閣僚会議に戻ってくる場面がみられました。

 ロシアとOPEC(特にサウジ)間で、減産継続時の生産量の削減幅について折り合いがつかず、ロシアのエネルギー相が急遽帰国し、プーチン大統領と協議したと報道されています。
実際の削減幅は資料1のとおり、サウジが日量25万バレル、ロシアが日量23万バレルと、サウジの削減幅の方が大きいことが分かります。

 詳細は後述しますが、生産量を削減するということは、獲得できたはずの外貨を放棄する意味を持つため、減産参加国の中でも削減量の大きい国は小さい国に比べて大きな負担を負っているといえます。

 同じ石油大国であるこの2カ国の削減幅について、サウジの削減幅がロシアの削減幅よりも大きくなったのは、サウジのロシアへの忖度であることは否定できません。

 ところで、OPEC総会直前の11月30日(金)、サウジの実質的なリーダーであるムハンマド皇太子とロシアのプーチン大統領がG20(20カ国・地域)首脳会議で顔を合わせた際、ハイタッチ後、笑顔でがっちりと握手をしているシーンがありました。

 このシーンは翌週のOPEC総会、OPEC・非OPEC閣僚会議で、外貨獲得を有利にする原油価格の上昇を実現するための「減産継続」方針決定を、サウジとロシアが大筋合意していたことを想像させます。

 しかし、総会開催中にロシアのエネルギー相がウィーンとサンクトペテルブルクを往復しましたが、削減幅の協議で難が生じ、ロシアの削減幅をサウジよりも少なくするなど、最終的にはサウジがロシアを忖度して総会を終えたとみられます。

 

OPECリーダーたちの減産への意思の低さが、減産継続への温度感の低さを浮き彫りに

 図2を見ると、2018年10月に比べて80万バレル削減した量は、現行の減産期間における最も生産量が少なかった時期とほぼ同等といえます。

図2:OPECの原油生産量

単位:百万バレル、日量
出所:OPECのデータより筆者作成

 また図3を見ると、2018年10月に比べて40万バレル削減した量は、現行の減産期間における生産量の「平均」と同等です。

図3:非OPEC(10カ国)の原油生産量(2次供給を含む)

単位:百万バレル、日量
出所: EIAのデータより筆者作成

 OPEC、非OPECともに現行の減産を上回る減産をする姿勢はみられません(消費については、OPECは米中貿易戦争などの影響で下方修正しています)。

 さらに、図4を見ると、サウジの減産は「駆け込み増産」で急増させた分の3分の1程度の削減であることが分かります。

図4:サウジの原油生産量

単位:百万バレル、日量
出所:OPECのデータより筆者作成

 そして、図5を見るとロシアは、「駆け込み増産」分の半分程度の削減を想定しているようです。

図5:ロシアの原油生産量(2次供給含む)

単位:百万バレル、日量
出所: EIAのデータより筆者作成

 OPECのリーダーであるサウジ、非OPEC10カ国のリーダーであるロシアはともに、駆け込み増産分の全てを削減することはなく、残りの削減分をOPECであればイラクやUAE(アラブ首長国連邦)など、非OPECであればカザフスタンなどに委ねたことになります。

 

前途多難な減産継続。次の注目点は2019年2月に公表される進捗データ

制裁猶予期間中のイランの生産増加懸念

 筆者が考える今回の決定事項における懸念点は、制裁猶予期間中のイランの生産増加懸念です。

 現行同様、減産免除国があると報道されていますが、減産免除国が生産量を増やせば、OPEC全体、引いては減産体制全体の生産増加の要因になるため注意が必要です。現行の減産免除国はリビアとナイジェリアの2カ国でしたが、たびたび原油の生産量増加が報じられてきました。

 イランへの制裁再開はトランプ大統領が中心に行っていますが、日本など8カ国への原油輸入は2019年5月3日まで認められ、その間イランは原油増産が容認されています。
イランは11月5日の制裁再開を前に、原油生産量を急激に減らしてきました。それだけに、減産を免除されたことをきっかけに、2019年5月3日までの生産量が増加する可能性があります。

 また、イランに生産上限を設けなかった(減産を免除した)ことが、イランの減産免除の要請を受けたと報じられていますが、トランプ大統領を忖度して、制裁を猶予した米国と足並みを合わせた面もあります。

カタール脱退による数字のトリックに注意

 2019年1月でOPECを脱退するカタールの生産量の扱いが不透明です。カタールは2018年10月時点で日量およそ60万バレルを生産しています。

 報じられるOPECの生産量のデータにおいて、2018年12月分まではカタールを含み、2019年1月以降の分はカタールを含まないとなれば労せずして全体の削減目標の半分、OPECの削減目標の4分の3を達成することになります。

 この場合、カタールは減産に参加しない非OPEC国となっただけに過ぎず、世界全体の供給量が減少するわけではないため、減産継続が需給バランスの引き締めや、在庫の削減に貢献するかどうか不透明になります。

 2016年11月の現行の減産を決定した総会でインドネシア(日量70万バレル程度生産)が脱退しましたが、このときもこのインドネシアの扱いが不透明なまま減産が始まりました。

産油国に減産疲れか

 今回の減産の懸念点としてイランの増産の可能性について触れましたが、カタールの脱退による数字上のトリック、先述の事前に駆け込み増産で減産の基準を引き上げてきいた点からは、できるだけ生産量を削減せずに(痛みを伴わずに)、減産をしているように見せるかという点に注力している可能性は否定できません。

 その意味では、減産参加国の減産にかける想いは決して強いとは言えないと筆者は考えています。これまでおよそ2年間、減産を継続してきた国々であり、減産疲れを起こしている可能性もあります。

 また、今後の減産体制をめぐる時間の流れは以下のようになるとみられます。

資料2:適用期間等の延長となった減産の今後について(各種報道より筆者作成)

2018年12月31日:現行の減産終了

2019年1月1日:新体制(24カ国)で、2018年10月比合計120万バレルの減産開始

2019年4月(日付は未定):OPEC定時総会およびOPEC・非OPEC閣僚会議

2019年5月3日:イラン石油再制裁、猶予期限到来(翌日より石油制裁再開)

2019年6月30日:今回継続を決定した減産が終了

減産を履行しているかを示す各国の生産量のデータは、2019年1月分は1月末から2月中旬、2月分は2月末から3月中旬…というタイミングで公表される

 

 実際に今回決めた削減量を守っているかどうかは、初月の2019年1月については2019年1月末から2月中旬にかけて、海外主要メディアや各機関が公表する1月の産油量のデータを見て確認することになります。

 また、4月のOPEC定時総会およびOPEC・非OPEC閣僚会議については、開催時期が年に2度開催するOPEC定時総会は、通常5月末か6月はじめ(年央)と11月末か12月はじめ(年末)であるものの、この年央のタイミングを4月にしたことは、トランプ大統領を忖度し、5月3日で猶予期限を迎えるイラン石油制裁を考慮してのことと考えられます。

 

減産継続の針路はいまだ視界不良

 今回の減産継続決定には、参加国が全力で減産に取り組む姿勢があるのか、不透明感がぬぐえません。産油国として原油価格を支えたい思いはあるとみられますが、数字のトリックの可能性、駆け込み増産の利用、トランプ大統領とロシアを忖度する姿勢など、懸念点は複数あり、中でもOPECのリーダーであるサウジの温度感が低いとみられる点は大きな懸念であると思います。

 そもそも、この規模の削減ではデータ面での心もとなさがあり、それを「減産継続決定」「予想を超える減産規模」というアナウンス効果で相殺し、市場参加者の心理や、ムードを改善させて原油価格を引き上げようとしている可能性があります。

 また、今回の会合でプロセス、および決定事項は、OPECのリーダーであるサウジアラビアが、トランプ大統領やロシアを忖度せざるを得ない状況に立たされていることを表しているといえます。特にトランプ大統領にサウジ殺害記者事件で擁護してもらったという借りが重くのしかかっていると筆者は考えています。

 米中貿易戦争、欧州の混乱などで消費減少懸念が高まる中、これ以上過剰在庫を積み上げないようにするため、生産削減はさけられないとの判断から、価格上昇を目指す減産ではなく、消費減退懸念への配慮のための減産という側面もあるかもしれません。一方で日に日に関与が強まるトランプ大統領やロシアを忖度した結果が“骨抜き”ともいえる減産継続だったということなのかもしれません。

 今回の総会は、米国、サウジ、ロシアという世界屈指の産油国間の、サウジの立ち位置を一段と引き下げたと言えると筆者は感じています。

 今後の原油価格の動向を見る上で、サウジ率いるOPECの動向以上に、トランプ大統領率いる米国、そしてロシアの関与にこれまで以上に注視していくべきだと思います。

 今回の減産継続決定を歓迎するムードで原油価格は目先、上昇するかもしれません。しかし、要求が通らなかったトランプ大統領からの下落圧力が強まったり、減産開始後に減産の進捗が芳しくないデータが公表されたりした場合、この減産継続がかえって重荷になり、原油価格は下落する可能性があることに注意が必要だと思います。