欧州危機とユーロ相場

「ドル相場の急伸と新興市場からの資本逃避は、次の大規模な金融危機をもたらす可能性があると、著名投資家のジョージ・ソロス氏が警告。EU(欧州連合)には存続の危機が差し迫っていると警鐘を鳴らした。同氏はイランとの核合意破棄と米欧の同盟関係破壊を挙げ、欧州経済に悪影響を及ぼし、新興市場通貨の下落など一連の混乱をもたらすだろうと29日にパリでの講演で語った。次の大規模な金融危機に向かっているのかもしれないと述べた。間違った方向に動きかねないと恐れていたことはすべて、間違った方向に動いたとし、難民問題やポピュリスト台頭につながった財政緊縮、英国のEU離脱決定が示す領土上の分裂を指摘。欧州が存続の危機にあるというのは、もはやただの言葉ではなく、厳しい現実だと語った」(「ソロス氏警告、世界は新たな金融危機に近づいている-EU存続脅かす」5月30日ブルームバーグ)

 ジョージ・ソロスが指摘するように欧州危機がマーケットテーマとして浮上しているが、現状では「生煮えの危機」であり、インフレが加速したり、金利が急騰しないかぎりは、まだゴルディロックス(過熱もせず冷え込みもしない、適度な状況にある)相場が続いているというのが筆者の認識だ。

米10年国債金利(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
出所:石原順

 

 危機のバロメーターとして注目されているVIX指数(俗称:恐怖指数)の現物の動きを見ていると、確かに若干上昇しているものの、まだ20以下の安全圏の推移となっている。

S&P500とVIX指数現物の推移(日足)

上段:S&P500とVIX指数
下段:1日TR(赤)と14日ATR(緑)
出所:石原順

 

 米著名投資家のラリー・ウィリアムズは、米国株式市場の転機はVIX指数の予測ラインからみて6月以降になると予測している。5月相場はまだ上下に振れているだけという認識である。

ラリー・ウィリアムズのVIX指数のボラティリティ予測

出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)2018年5月28日
ラリー・ウィリアムズおよび国内代理店パンローリングの掲載許可をとって掲載。著作権のため、チャートおよび文章の一部を隠している

 

 筆者は現在のユーロ/ドルの週足や日足で進行しているユーロ売りトレンド相場は、ユーロの買いポジションが溜まっていたところにイタリアやスペインで悪材料が出てきたので、いわゆる投げ相場になったためだと考えている。相場の急騰は「踏み上げ」、相場の急落は「投げ」によって起こっているということだ。だから、当然、売られすぎによるユーロ高という揺り戻しもあるだろう。下のCOTレポートチャートのユーロのポジションをみれば、ユーロ安は投機筋の投げが主導になっているのがわかる。

ユーロのCOTレポートチャート

 

 CFTC(米商品先物取引委員会)は、それぞれの先物市場上場商品について、建玉を公表するように各取引所に義務づけている(これをCOTレポート= The Commitments of Traders Reportといいます)。この建玉報告は、実需の投資家(Commercial=コマーシャルズ=現物業者・当業者・ヘッジャー)、大口投機家(Non-Commercial=ノン・コマーシャルズ=大口投機家、ファンド)、非報告建玉(Nonreportable Positions=通常、小口の投機家とみなされる)に分けて、発表される。

出所:COTbase.com

 先週、『ユーロは売り?「トレンドはこの世の不可欠で根本的な現実」という話』というレポートを書いたが、読者の皆さんはうまくユーロ/ドルの日足の売りトレンド相場に乗れただろうか?ユーロ/ドルは現在、週足も日足も売りトレンドのシグナルが点灯している。週足でも日足でもユーロ売りトレンドが発生している局面は、相場が「ビッグ・トレンド相場」に発展する可能性がある。だから、こうした局面ではストップロス注文を置いて、必ず相場にエントリーするようにしている。

ユーロ/ドル(週足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ・ATRチャネルバンドサイン
中段:ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

 

ユーロ/ドル(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ・ATRチャネルバンドサイン
中段:ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

 

ユーロ/ドル(4時間足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ・ATRチャネルバンドサイン
中段:ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

 

ユーロ/ドル(1時間足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ・ATRチャネルバンドサイン
中段:ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

 

ユーロ/ドル(30分足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ・ATRチャネルバンドサイン
中段:ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

 

ユーロ/ドル(15分足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ・ATRチャネルバンドサイン
中段:ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

 

長期に安定したパフォーマンスを上げるには、取引商品の「分散」が必要

 いわゆるトレンドフォロー(順張り)の手法で相場にアプローチした場合、そのパフォーマンスは「運」や「偶然」による部分も大きい。

 たとえば、1年間、ドル/円を取引して大きなトレンド(方向性)が発生しなかった場合、どんなトレンドフォロー(順張り)の手法を用いても大きく儲けることはできない。これを人は「運」や「相場」が悪かったと言う。

 最近の株式相場を見ていても、英国の株価指数FTSE100の日足は最高のトレンド相場が続いているが、米国の株価指数NYダウの日足はランダムウォーク相場が続いている。

FTSE100CFD(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ・ATRチャネルバンドサイン
中段:ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

 

NYダウCFD(日足)標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ・ATRチャネルバンドサイン
中段:ADX(14)=赤・標準偏差ボラティリティ(26)=青
下段:赤色の期間=買いトレンド・黄色の期間=売りトレンド
出所:MT4 石原順DVD『石原順のボラティリティトレードシグナル』

 

 しかし、どの商品に何時大きなトレンドが発生するかを当て続けることは不可能なので、「運」よくトレンドに乗る(ついていく)ためには、出来るだけ多くの商品をトレードすることが必要となってくる。

 筆者が相場の世界に入って既に30年超が経過したが、運用で「長期に安定したパフォーマンス」を上げるには、取引商品の「分散」が必要だとの信念を持っている。

 相場を事業として長く続けるには、

  1. 自分の運用手法に対する絶対的な信頼性をもつ
  2. 世界のあらゆる市場に分散投資し、40~50品目の商品を取引する

 という2点が重要だ。

 個人投資家で50品目の取引を行うのは大変である。しかし、トレンドフォロー(順張り)の手法で、長期にわたって「安定した」収益を上げるには、ある程度の商品分散(少なくとも株や債券、コモディティなど、10商品以上への投資)が必要であると思われる。

 相場へのアプローチは「各人各様」でよいだろう。相場手法に正解はない。FXや先物取引は資金効率が非常によい反面、レバレッジ(借金)で取引する商品なので、オーバー・トレードは厳に慎みたい。小さなポジションで複数の商品のポジションをもつことが安定運用につながることは、これまでのファンド運用の歴史が証明している。

「私たちは必ずしも特定の時期にうまく乗れるわけではない。だが注意深く検討すれば、不確かな世界でも最も理にかなう投資哲学はトレンドフォローだ。トレンドフォローは高値で買ったり安値で空売りする。19年間、私たちは一貫して高値で買い、安値で空売りした。もしトレンドが市場の根本的な性質でなければ、私たちのような取引手法ではたちまち廃業に追い込まれていただろう。しかし、トレンドはこの世の不可欠で根本的な現実だ」(ジョン・W・ヘンリー)