3: 期待先行相場“バイデン・ワクチン相場”の縮小・終了

 期待先行相場“バイデン・ワクチン相場”の概略については、以前のレポート「“バイデン・ワクチン相場”で見えた、金(ゴールド)と原油の実力」で触れました。

“バイデン・ワクチン相場”は筆者の造語で、バイデン新政権と、有効性の高いワクチンへの強い“期待”がジャンルを超えた幅広い市場を覆い、多数の銘柄が上昇した相場のことです。2020年11月、同相場によって、原油やプラチナ、銅の他、マイナーなコモディティ(商品)銘柄、主要株価指数の上昇が目立ちました。

“バイデン・ワクチン”相場の正体は“期待”です。バイデン新政権はまだ発足していません。有効性の高いワクチンもまだ、一般的な接種は始まっていません。つまり、どちらもまだ起きていないのです。起きていない事象への強い“期待”が重なったことで、幅広い銘柄の価格が大きく上昇したのです。

 バイデン新政権が発足したり、有効性の高いワクチンの接種が始まったりして、これらの期待が“現実”のものとなった時、市場では何が起きるのでしょうか。

 この時、これらの期待は市場にとって“織り込み済”の材料になると、考えられます。上昇圧力として十分活躍したこれらの材料(期待)が現実のものになってしまえば、その後、これらの材料が、それ以降、各種市場に上昇圧力を加えることは、難しいと考えられます。

 期待を“前借り”して上昇した相場は、現実になった後も、上昇圧力を加えることはできないのではないか、ということです。

 タイミング的には、バイデン新政権の発足予定は2021年1月、ワクチンの普及は順次、であるため、これらが“織り込み済”になり、相場が不安定化するタイミングは、1月とそれ以降、順次、となると考えられます。

 この時不安定化する可能性がある銘柄は、“バイデン・ワクチン相場”で上昇した銘柄群とみられます。“バイデン・ワクチン”起因の材料が織り込み済になることで、株式相場が不安定化し、金(ゴールド)相場に“代替資産”の側面から上昇圧力がかかる可能性があります。

4: 先進国の大規模な金融緩和の継続・強化

 2020年3月以降、先進国では大規模な金融緩和が行われています。中央銀行が、市中から各種有価証券を購入したり、異例の低金利を継続したりしています。

 中央銀行が市中から有価証券を買い入れれば、市中に出回る資金の量が増え、その国の通貨の価値が希薄化する懸念が生じます。また、低金利を継続すればその国の通貨を保有する妙味が低下します。

 これらにより、大規模な金融緩和はその国の通貨の価値の希薄化懸念を強めたり、保有妙味を低下させたりする要因になり得ます。現在の基軸通貨(世界の貿易で最も多用されている通貨)はドルですが、そのドルを発行する米国の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)が、現在行っている金融緩和策を強化すれば、ドルは今よりも安くなる可能性が生じます。

 金(ゴールド)は、歴史的に世界の幅広い地域でお金として利用されたり、現在でも一部の中央銀行が当座の資金繰りのために現金化されたりしています。基軸通貨のドルも金(ゴールド)も、“世界の共通のお金”という側面を持っていると言えます。

 ドルと金(ゴールド この場合はドル建て)のこのような関係は、時折、“ドル高・金安”、“ドル安・金高”といった、ドルと金が相反する動きをする要因になります。

 特にFRBが、現在行っている金融緩和策を強化すれば、“ドル安・金高”の構図が強まる可能性があります。中央銀行は、物価の安定や雇用の維持を主な役割の一つとしているため、コロナ禍の出口(兆しではなく、終わりの終わり)が具体的に見えるまで、緩和的な措置を続ける(場合によっては強化する)可能性があります。

“先進国の大規模な金融緩和の継続・強化”は、“代替通貨”の側面から、金相場に上昇圧力をかける要因になり得ます。コロナ禍の出口を出るまで、中央銀行による緩和策が続く可能性があるため、少なくとも2021年は通年で、“先進国の大規模な金融緩和の継続・強化”の側面から上昇圧力がかかり続けると、筆者は考えています。

 また、2010年ごろから、中央銀行自身が金(ゴールド)の保有高を積み上げています。この流れが続けば、2021年も、金相場に上昇圧力がかかり続ける可能性があります。この点は、冒頭で述べた、金市場に関わる5つのテーマの一つ、“中央銀行”起因の上昇圧力です。

5: 中国経済絶好調

 世界中がコロナ禍にあえぐ中、経済指標が示すとおり、中国経済は好調です。2020年7-9月期の同国のGDP(国内総生産)が、新型コロナが存在しなかった前年同期に比べてプラスだったことは、同指標が発表された当時、関係者を驚かせました。

 新型コロナの感染状況をみても、主要国の中で中国は異質な存在です。1月から2月にかけて発生した第1波以降、目立った感染拡大は起きていません。つまり、感染拡大からいち早く脱却し、経済回復を達成したわけです。

 中国は金(ゴールド)の宝飾および投資需要で世界屈指のシェアを誇ります。この中国の経済回復、成長は、金(ゴールド)の需要を増加させる一因になり得ます。

“中国経済絶好調”は、5つのテーマの一つ、“中国・インドの宝飾需要”の側面から、金相場に上昇圧力をかける要因になり得ます。たとえ先進国経済がコロナ禍から回復しきっていなかったとしても、中国の経済成長が続く限り、金相場に、この材料起因の上昇圧力はかかり続けると、筆者は考えています。