新型肺炎、欧米へ“2つの飛び火”

 以前のレポート「極限状態の中、金(ゴールド)に恋をしてはいけない」で、新型肺炎の影響が、具体的に欧米に波及した場合、それは欧米にとって対岸の火事ではなく、欧米自体の火事となるため、ドル建ての金相場に上昇圧力をかける可能性があると書きました。

 実際に2月3週目、欧米で、新型肺炎の感染者や死亡者が出始め、新型肺炎のマイナスの影響が拡大したことで主要株価指数の下落が目立ち始めました。欧米に、新型肺炎が具体的で直接的に影響を及ぼし始めたことがきっかけとなり、欧米で主に取引される、金価格の国際的な指標であるドル建て金が上昇したと考えられます。

(1)欧米で新型肺炎の感染者が増加。欧州では死亡者が出始めた

 以下より、新型肺炎の感染者・死亡者のデータを確認します。以下のグラフは、WHO(世界保健機関)が毎日公表しているデータをベースに作成した、新型肺炎の感染者数および同肺炎による死亡者数の前日比を示したものです。

 日本時間25日(火)未明、WHOの事務局長は新型肺炎について、現時点では、パンデミック(世界的大流行)とは言えないものの、各国はそれに備える必要があると発言しました。

 このことは、これまで目立った影響が出ていなかった欧米で、徐々に新型肺炎の感染者・死者が出はじめたことを受けた発言と考えられます。

図:世界全体の新型肺炎の感染者数(前日比) 単位:人

出所:WHOのデータをベースに各種報道を参照の上、筆者作成

 中国における新型肺炎の感染者の増加のペースは、鈍化傾向にありますが、特に2月3週目から、中国以外での感染者の数の増加が目立ち始めています。2月24日には、中国以外における増加数が300人となり、220人だった同日の中国における増加数を上回りました。

 また、以下は、世界全体における新型肺炎が原因で死亡した人の数の前日比です。

図:世界全体の新型肺炎の新たな感染者の数(前日比) 単位:人

出所:WHOのデータをベースに各種報道を参照の上、筆者作成

 同じく2月3週目から、中国以外において、新型肺炎による死亡者が出始めていることがわかります。まだ規模は小さいですが、確実に、中国以外の感染者・死亡者が増加しています。

 以下は、中国国外の主要地域における、新型肺炎の感染者の前日比です。

図:欧州、米国、日本などの中国以外の新型肺炎の感染者数(前日比) 単位:人

出所:WHOのデータをもとに筆者作成

 2月3週目から、徐々に、欧米で感染者が増え始めています。欧州はイタリア、ドイツ、フランスで感染者が増えています。米国では、2月3週目の週末となった2月22日に、35人に増加しました。

 また、以下は、中国国外の主要地域における、新型肺炎の感染者の前日比です。

図:欧州、米国、日本などの中国以外の新型肺炎による死亡者数(前日比) 単位:人

出所:WHOのデータをもとに筆者作成

 欧米の感染者・死亡者のデータはまさに、新型肺炎の影響が欧米に“飛び火”したことを示しています。すでにイタリアでは、大規模なイベントが中止になったり、観光名所や一部の自治体が封鎖されたりしていると報じられています。

 これまでアジアが中心だった新型肺炎の影響が、いよいよ、欧米を含んだ中国以外の国や地域に“飛び火”し、世界的な懸念が強まっています。欧米での懸念の高まりが、金価格の国際的な指標であり、欧米で主に取引されているドル建て金価格を上昇させる一因になっているとみられます。

 以下より、新型肺炎の欧米への飛び火について、2つ目の事例を述べます。