株式市場は12月に目先の天井を付けるか?

11月17日のレポート『「トランプラリー(株高)とトランプフレーション(金利上昇)の賞味期限は?』で、【筆者の周辺の株式運用者は、「市場はトランプリスクに対して警戒を解いていない(構えている)。そうした警戒感があるうちは、株式相場は上昇する。皆が強気になっていないからだ。NYダウが19,000ドルを超えてくると、トランプ大統領就任までに20,000ドルの大台を試す可能性が大きくなる。彼が大統領に就任するまでは、悪材料が出てきても相場はさほど下げないだろう。しかし、相場が思惑通り上昇したら、1月はいったん利食いしたい」と述べたうえで、「現在の相場は非常に難しい。相場は上げの最終波動である5波動目に位置していると思われるが、トランプの財政出動や減税が行われれば現在のバブルが1~2年延命する可能性は十分ある」と述べている】と書いた。

来年1月20日のトランプ就任までは<トランプ期待相場>が続くが、筆者は12月中に株式の買いポジションを最低でも半分は利食いする方針である。「筆者の周辺のファンド勢は、大統領選挙日の11月8日(日本時間9日)に「10月末買い・翌年4月末売り」のポジションを構築したところが多いが、NYダウが19,000ドルを上抜けて走ることになれば、12月か1月にいったん利食いする方針だという」と11月17日のレポートに書いたことを実践する予定で、これまでセミナーやラジオ番組等でも、「NYダウは19,000ドルを超えると20,000ドルまで一気に上がる可能性がある。相場がそのような展開になれば、12月中にいったん買いポジションを利食いする」と申し上げてきた。

<なぜ12月中に利食いするのか?>の理由は、テクニカル分析的な要因だ。NYダウ、S&P500、日経平均はまさに電車道相場、即ち、スピード違反相場となっているが、現在の価格はラリー・ウィリアムズ(短期売買で最も収益を上げた著名投資家)のターゲットプライスに接近している。ラリーは株式市場を弱気に見ているわけではないが、そろそろ周期的に相場がピークを付ける時間帯に接近しているという認識のようだ。

12月12日の『ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)』でラリー・ウィリアムズは、S&P500先物と日経平均の上昇ターゲットと天井日を予測している。著作権の関係で内容を詳しく書くことは出来ないが、この相場は12月の後半にはいったん利食いをしたほうがよさそうだ。

ラリー・ウィリアムズが2016年初に発表したNYダウの年間予測(フォーキャスト2016)と実際の相場の動き

(出所:『フォー-キャスト2016』ラリー・ウィリアムズ:レポートの転載については、ラリー・ウィリアムズ本人、およびラリー・ウィリアムズのレポートの国内代理店に許可を取っています)

S&P500先物(日足)
●月●日に短期的に S&P500 をロングすると、かなり高い確率で成功するでしょう。注意点は上昇が長続きしないことです。

(出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)12月19日・著作権の関係で画像の一部を隠しています)

筆者は12月中という日柄のタイミングで米国株を強制的に利食いしてしまう予定であるが、もう一つの利食い方法は21日ボリンジャーバンド+0.6シグマラインの割り込みで利食いするか、(それでは押しが深すぎるという方は)トレーリングストップ注文を置いておくことだろう。

NYダウ(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

日経平均はNYダウよりダラダラと上げ続ける可能性が高いものの、日経平均はNYダウとドル/円との連動性が高く、筆者は12月中に利食いする予定である。

日経平均(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

日経平均(日足) 14日ATRの下げ過程では日経平均は上がりやすい
上段:1日ATR(赤)・14日ATR(青)
下段:26日標準偏差ボラティリティ(紫)・25日エンベロープ±5%(赤)・10%(青)・9日RSIの売買シグナル

(出所:石原順)

また、日本円に関しても12月19日の『ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)』で、「フォーキャストラインは円高を予測しており、転換の時期だ。日本円も(テクニカル的な条件が整えば)そろそろロングする時期にきている」と述べている

シカゴIMM日本円通貨先物(日足)

(出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)12月19日・著作権の関係で画像の一部を隠しています。)

ドル/円(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

シカゴIMM 円のポジション(CFTC発表 12月13日現在)

(出所:CFTC)

豪ドル/円(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

カナダドル/円(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ヘリコプターマネー観測で海外勢が円売り

プリンシパル・グローバル・インベスターズのチーフエコノミストであるボブ・バウアは、「10年物国債の利回りをゼロ付近に維持する日銀の政策が少なくともあと2年続くと予想。一方で米当局は今から17年末までの間に最大4回利上げをして米10年債利回りは3%を超える公算があり、これが対円でのドル相場上昇を促す見込みだという。日銀は利回りをゼロに維持するために大量の日本国債を買わなければならないだろう。また大規模なバランスシートを長期にわたって維持しなければならないかもしれない。これは本質的に、ミルトン・フリードマン氏がヘリコプターマネーと呼んだものだ」(12月8日 ブルームバーグ「ドルは14年ぶり高値更新も、日銀の債券大量購入継続で-プリンシパル」)と語ったという。

日銀の長期金利固定策はデフレのうちは緩和縮小だが、インフレになるとヘリコプターマネーになる。ヘリコプターマネーは大幅な円安を誘発するが、米国がそうした人為的な円安誘導を許すのか?また、125円以上の円安は地方経済の疲弊で政府が牽制した経緯があり、国内からも批判が出てくるだろう。ドランプノミクスとその結果としてのインフレ観測で米国発(米金利上昇)のドル高が起こったといわれているが、大きく上がっているのはドル/円とクロス円の一部、そして株式市場だけである。結局、日銀はオーバーシュート型コミットメントという大義名分で、インフレ目標2%を達成したあとも国債を買い続けることになるだろう。9月21日の日銀の政策変更は、日銀は金融市場が暴落して市場介入が効かなくなるまで緩和を続けるということである。

「日銀はデフレのうちは(インフレにならない限り)、長期金利の制御は可能だと考えているのだろうし、日銀にとっては都合の良いグローバルデフレという環境にある。しかし、トランプ新大統領の誕生でそうしたシナリオが怪しくなってきた。日銀による長期金利の固定は、デフレのうちは緩和縮小(テーパリング)だが、インフレになるとヘリコプターマネーになる」と筆者も述べてきたが、問題はそうした不公平や円安=ドル高をトランプ(米国)が許すかということである。トランプは為替についてまだ何も発言していない。しかし、ドルインデックスが100を超えている現状で、日銀のヘリコプターマネーで円安が進行すれば、為替操作国として日本が批判を受けるリスクが高まる。

ドルインデックス先物(週足)
上段:14週修正平均ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

トランプの現実相場はどうなる?陰鬱博士マーク・ファーバーの見解

株高と金利高の蜜月相場はいつまで続くのだろうか?著名なヘッジファンドの運用者で陰鬱博士と呼ばれるマーク・ファーバーが興味深い指摘をしているので、彼の見解を紹介しておきたい。(転載については、マーク・ファーバーのレポートの国内代理店に許可を取ってある)

【ミルトン・フリードマンによると、政府支出の増加が持続的経済成長を導くという経験的証拠はないという。その格好の例が日本だ。1989年に株価と不動産価格が弾けて以降、日本ほどインフラに投じている国は、ほとんどないだろう。しかし、成長を持続しているところがあるだろうか。「大して効果がない」政策にもかかわらず(ただし、これはクリントンも計画していた)、財政支出の膨張と関連があり、財政赤字から賄うという問題がある。

10年債利回り3%と力強い経済成長はどこまで両立するだろうか。3%の10年債利回りは、底入れした1.37%の2倍超となる。それはあらゆる資産市場に、そして自動車・住宅・商業用不動産・レバレッジ企業(負債への依存度が高い企業)といった金利に敏感な業界に、かなりの悪影響を及ぼすことになるだろう。

当初からトランプを完全に過小評価し、継続的に攻撃し、バカにしていた一部"専門家"が今度は、彼がもたらそうとしている変化を完全に過大評価しているようにみえる。一方、トランプは一貫して自分を過大評価しているとはいえ、大統領として現実的になるだろう。そして、"制度"的に自分にできることは限られていると悟るはずだ。

歴史的にまず明らかなのは、反乱に成功した反逆者たちほど、かつて自分たちが非難し、駆逐した勢力の手法を採り入れていることだ」トランプを「反逆者」と呼べるか分からない。「聡明な山師」といったほうが適当だろう。いずれにせよ、私が指摘しておきたいのは、彼の当選に「期待しすぎない」ことだ。

もっとも、クリントンの落選が米国や世界平和にとって良いことであったのは間違いない。なぜなら、クリントンよりもトランプのほうが自分を敵視する人々やリベラル主流のメディアから、自分のあらゆる政策について、はるかにたくさんの説明責任を負わされているからだ。クリントンだったら、それほどではなかっただろう。ちょうどオバマが、ほとんど何でも見逃されたように・・。

とはいえ、トランプは結局すべての人を失望させることになる。高給職は米国に戻ってこないだろう。メキシコとの国境に壁は築かれないだろう。オバマケアは解体されないだろう。クリントン家やブッシュ家のようなネオコンが裏で権力を保ち続けるだろう。連邦法人税率を引き下げても、地方税率の引き上げと景気の悪化で、また場合によっては賃金の増加と金利の上昇で、その効果は相殺されるだろう。

トランプの経済・財政(特に)政策で企業収益は改善されるだろうと無条件に楽観的になる前に、投資家は考慮すべきことがある。企業収益が賃金・金利と逆相関にあることだ。FF金利が上昇すると、企業収益は下げ圧力を受けるのだ。

米国企業の収益の拡大・縮小と金利(1985年~2015年)

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート 2016年12月号『大山鳴動して鼠一匹』)

また、先ほど述べたように、賃金の増加傾向に拍車がかかると、企業収益はGDP比で下げる傾向にある。さらに、S&P500企業の利益は4割超が米国外からのものなので、国外経済の成長見通しが米国企業の収益性に強い影響を持つことになる。

もうひとつ読者に考慮してほしいことがある。それは法人税率の引き下げ効果だ。米国の経済規模(GDP約18兆ドル)や米連邦政府歳入との対比で、法人税(年3,000億ドル)は個人所得税(年1.6兆ドル)よりも小さい。法人税率の引き下げは企業の収益性に好影響をもたらすかもしれない。しかし、先ほど述べたように、その効果は、かなり薄いものになりそうだ。また、経済全体にも大した影響がないだろう。国内設備投資を押し上げそうにないからだ。

設備投資の決定的要素となるのは、人件費、生産性、規制、金利、最終需要などである。それに比べれば、法人税率の引き下げは大して重要ではない。

政府のインフラ支出は歴史的低水準から間違いなく増加に転じるだろう。だが、考慮すべき問題がいくつかある。まず、インフラは一夜にして1兆ドル増やせない。そのプロジェクトに研究、討論、承認、資金調達が必要となるからだ。また、インフラが貧弱な米東海岸州とカリフォルニア州はトランプに投票しなかった・・。

聡明なる新ケインズ主義のエコノミストたちによると、債務は問題ではないという。さらに余談ながら、ポール・クルーグマンは選挙直後の夜0時42分に「相場がいつ回復するかという質問があれば、率直な回答は『決してない』だ」と述べている。

しかし、先ほど述べたように、債券市場の見解は「若干」異なるようだ。そして、それは重要な意味を持つ。なぜなら、金利が上昇し続ければ、トランプ派による財政赤字の増加もあって、既発債と新発債への利払いが急増するからだ。それは赤字を劇的に増加させることになる。

現在、10年物米国債の利回りは2.22%(レポート執筆時点)である(7月の1.37%を底に反発)。ここで次の状況について少し考えてみたい。トランプの経済政策(財政赤字=年2兆ドルを超える政府債務の増加)が的中し、米国経済が実質ベースで3%を超える成長を始めたとしよう。そしてそのおかげで、すべての株式強気派が、米国経済は強くなるという確信に基づいてダウ平均を史上最高値に押し上げたとする。

このシナリオでは、10年物米国債の利回りが3%近くにまで上昇し続ける可能性が高い。強い成長が消費者物価のインフレを伴い、債券の買い手を躊躇させるからだ。

10年債利回り3%と力強い経済成長はどこまで両立するだろうか。3%の10年債利回りは、底入れした1.37%の2倍超となる。それはあらゆる資産市場に、そして自動車・住宅・商業用不動産・レバレッジ企業(訳注:負債への依存度が高い企業)といった金利に敏感な業界に、かなりの悪影響を及ぼすことになるだろう。

米10年国債金利(週足)
上段:14週修正平均ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

したがって、何かしらの刺激策で力強い成長が導かれるようであれば(先ほど述べたように、それはあり得ないと私は信じているが)、金利上昇と資産市場による急激な下方修正によって、相殺どころでは済まなくなりそうだ。

しかし、このシナリオで検証すべきことがある。FRBなど中銀が、米国の長期金利を例えば最大2%近辺にとどめておくため、債券のさらなる買い入れに乗り出した場合だ(実質的に日銀は長期金利をゼロにとどめようと、これを実施している)。

もちろん、これはトランプが「カノッサへの道」を進まざるを得ないことを示唆する(訳注:カノッサの屈辱=1077年に神聖ローマ皇帝がドイツの諸侯に追い詰められ、敵対するローマ教皇に屈辱的な謝罪をした事件)。たびたびFRBを攻撃していたトランプがイエレン(FRB議長)に極めて膨張的な金融政策を進めるよう懇願しなければならなくなるからだ。

そうなれば、すべての人がトランプに失望するだろう。彼がFRBを精査し、イエレンをクビにしてくれると信じていた投資家は、深い失望を味わうことになる。

個人的にトランプはFRBにかなり膨張的な金融政策を進めるよう、しきりに催促するとみている。その結果、前者の轍を踏むことになる。

また、さらに膨張的な金融政策が避けがたいと考えられる状況がある。これまで米国債の買い主力であった海外勢が現在は正味で売り方になっていることだ)。

まず、2011 年にBRICS 諸国が米国債の購入をやめた。これはBLICS諸国(ベルギー、ルクセンブルク、アイルランド、ケイマン諸島、スイス)からの買い急増で相殺されたとはいえ、E3(量的緩和第3弾)が終了して以降、急増する米国債に対して外国勢は食指を動かさなくなった。

しかも、個人投資家は今年、債券市場で大きな含み損を抱えている。正味で売り方になる可能性が高い。

必然的な米国債の供給増に対し、どこに買い余力があるだろうか。最近の急落で、来年早々にQE4が開始されても不思議ではない。 しかし、それは中間所得層(トランプに投票をした人々)の実質所得がさらに低下することを意味する。生活費の負担増が所得の増加を上回り続けるからだ】

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート 2016年12月号『大山鳴動して鼠一匹』)

2017年の1月はトランプラリーが期待から現実に変わる月である。ドル/円は3年連続で1月に急落(円高転換)しているので警戒は怠れないだろう。日本株の上昇は円安と連動しており、1月の相場反転には注意したい。

ドル/円(月足)と1月の相場転換 円安転換=青・円高転換=赤 3年連続円高に転換

(出所:石原順)

新しい概念による相場予測

筆者が相場の取引システムの構築に一番熱中していたのはMS-DOSやロータス123の時代である。その後は2000年代のニューラルネットやカオス理論の時が興味のピークだったような気がする。ここにきて、IT系の運用会社やアルゴリズムファンドからいろいろな取引システムのツールが送られてきて、いろいろ試している。(高速取引・人工知能・アルゴリズム系のソフトウェアはCPUやメモリを酷使するので、この手の取引プログラムはノートパソコンや町の電気屋で売っている(ハイスペックでない)一般的なデスクトップPCでは動作が不安定なのがつらい。CPUやメモリは劇的に進化しているのに、ソフトの動作が重いのはOSが非効率だからである)

ざっと、試したところ、2000年代のような革新的な取引手法の革命はなく、最近のアルゴリズム取引にはあまり面白いものがない。とはいえ、来年は新しい取引システムに挑戦したいと思っている。

相場の予測方法も新しい時代に入りつつある・・

(出所:石原順)

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。