まさかのトランプ大統領誕生

ブレグジットと同様に、米大統領選の開票は東京市場と重なったが、クリントン優勢との報道で始まった東京市場は、ドル買いで始まりドル/円も105円台半ばを付ける動きとなっていた。しかし、フロリダ州の開票でトランプ優勢が伝えられたあたりから、トランプ当選で米国売りを警戒した投資家の売りでパニック売りが出て、ドル円は101円20銭まで下落し、他の通貨でもドル安が進んだ。日経平均も一時1000円を超える下げに見舞われた。

ドル/円(1時間足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青)
上段:13時間エンベロープ±0.3%(青)・±0.6%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

* 転換点売買: <修正平均ADX(パラメータ3)>がピークに達した次のローソク足の方向についていくだけの短期売買手法である。ストップ注文を置いて参入、直ちに利食いをおこなう場合もあるし、利が乗ってきたらトレール注文的な決済、あるいは過去X日間の高値・安値のブレイクで決済をおこなうこともある。いずれにせよ、損切り注文を入れることは必須である。

(出所:MT4・石原順)

ドル/円(日足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青
上段:13日エンベロープ±2%(青)・±3%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:MT4・石原順)

筆者のところには昨日朝から運用者の電話照会が殺到したが、「この相場は東京・ロンドン・NYと、一周してこないとわからない。ここからの注目ポイントはトランプの勝利宣言のスピーチと米10年国債の金利の動向だ。そして、米10年国債の金利をうけた株の動向が目先の相場を決めるだろう」との意見が多く、「ファンドマネージャーが注目しているのは、株式市場は兎も角、米国債市場がどんな反応をするかです」とブログにも書いた。

米10年国債金利(日足) 8か月ぶりの2%超え!
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

トランプの経済政策が実現可能か否かは別にして、その内容はレーガノミクスを彷彿させる「財政出動・減税・本国投資法」という株式相場が急騰しそうなものばかりである。また、選挙戦では退役軍人向けに利上げをほのめかしていたが、「不動産業のトランプが自分の事業に不利益になる急激な金融引き締めなどするわけがない」と、運用者もトランプの自国優先主義の経済政策は他国(もっとも悪影響を受けるのは日本)への影響はともかく、米国には悪影響は与えないという見方が多い。

我々は都市部のスラムやトンネル、高速道路などのインフラを立て直していきます

トランプは勝利宣言のスピーチで早速軌道修正をしてきた。過激なスピーチは鳴りを潜め、「分断の傷を癒し団結を目指す」と述べている。また、トランプの圧勝によりヒラリーも敗北をあっさり認めたことで、懸念されていた選挙後のゴタゴタも回避された。マーケットはトランプの勝利宣言のスピーチから株高・金利高に転換したのである。

トランプの政治・外交・経済政策は不透明な部分が多いが、昨日の勝利宣言では経済政策について早くも言及している。

「今、クリントン前国務長官から電話がかかってきました。クリントン氏は、私たちの勝利を祝ってくれました。私も心の底から、クリントン氏とご家族を称えました。ヒラリーは長きにわたり、懸命に戦ってきました。彼女の国に対する献身に対して、私たちは心から感謝をしています。

これからは分断の傷を癒していきましょう。団結を目指す時です。共和党員、民主党員、独立系の人々、国じゅうの全ての人たちに申し上げたい。今こそ私たちは、一致団結した国民の姿を見せるべきです。その時がやってきました。

私はここに誓います。私は、全てのアメリカ人の大統領になります。私を支持しなかった方にも、私は手を差し伸べます。皆さんの支援、そして導きを求めます。一致団結して、この国を偉大な国にしていきましょう。

すべての国民が、自分の可能性を追求するチャンスが与えられる世界へ。世の中から「忘れられた人々」は、もはや忘れられた存在にはならないのです。我々は都市部のスラムやトンネル、高速道路などのインフラを立て直していきます。これは非常に重要なことなのです。インフラを立て直す過程で、大勢の人たちを雇用していきます。

私は皆さんの大統領になれることを、とても楽しみにしています。そして2年後、3年後、4年後、あるいは8年後に「とても誇りを持てた出来事だった」と言えるようにしたいです。選挙戦は終わりましたが、運動はまだ始まったばかりです。私たちはアメリカの国民のため、すぐに作業に取り掛かります。

そして願わくば、皆さんが大統領に誇りを持てるようにしたいです。今夜は素晴らしい夜になりました。私はこの国を愛しています。ありがとうございました」(トランプ新大統領が勝利宣言)

大統領の勝利宣言で、経済政策を述べることは通常ありえないが、「我々は都市部のスラムやトンネル、高速道路などのインフラを立て直していきます。これは非常に重要なことなのです。インフラを立て直す過程で、大勢の人たちを雇用していきます」と、財政出動で雇用を増やすことを宣言したのだ。スピーチをうけてトランプリスクを警戒してヘッジを持ち込んでいた投機筋は、株の買い戻しに動いたという。

S&P500先物(1時間足)
上段:21時間ボリンジャーバンド±1シグマ(青)・±2シグマ(赤)
中段:26時間標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:14時間修正平均ADX(青)

(出所:MT4・石原順)

S&P500先物(日足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青)
上段:13日エンベロープ±1%(青)・±2%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:MT4・石原順)

NYダウ(日足)のフィルター付き逆張り売買シグナル
上段:200日EMA(緑)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

トランプの財政出動観測で債券から株への資金シフト

この一連の動きは何を意味しているのだろうか?昨日の相場でみえたのは「財政出動→金利上昇→株価上昇」という流れである。これは、現在、史上最大のバブル相場となっている国債(債券)市場から株式市場への資金シフトが起きているのである。日本と違って、米国市場はまだマーケットメカニズムが働いているのだ。

金利が上がっても株式市場が下がっていないのは、株式市場が財政出動を歓迎しているのと、経済が過熱して多少インフレになってもFRBは金融緩和状態を‘放置’すると市場がみているからである。

10月27日のレポート「イエレンの高圧経済政策と米国の財政出動は相場の最終波動を延命させるのか?」 

で、10月14日の講演でイエレンFRB議長が「経済危機による損失の修復を図るには高圧経済(high-pressure economy)政策が唯一の方策となり得る」との考えを示したのを紹介したが、高圧経済政策は簡単に言うと、金融政策や財政資金の投入で需要を喚起する政策である。

米資産運用会社ダブルライン・キャピタルを率いる新債券の帝王ジェフリー・ガンドラックは、「インフレ率が2%を超えても引き締めに踏み切る必要はないとイエレン議長は考えているようだ。一時的であればインフレ率は3%に到達することも可能だ」と感想を述べている。イエレンの真意は「12月に利上げしても、その後半年くらいは利上げしませんよ」ということではないかと言われている。

イエレンをクビにすると言っているトランプは、皮肉にもイエレンの「金融政策や財政資金の投入で需要を喚起する」という高圧経済政策の体現者となる可能性が高い。株式やコモディティの相場は、最後の相場が熱狂的に上がりやすい。イエレンの緩和長期化路線と予想されるトランプの財政出動によって、現在、チャーチストたちによって上げの最終波動(5波動目)に入っているとカウントされているNYダウの最後の上げ相場はエクステンション(延長)し、意外な上げ相場に発展する可能性がある。

NYダウ(週足)のフィルター付き逆張り売買シグナル
上段:200週EMA(緑)・52週ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

トランプ相場のリスクが表面化するのは1月か?

筆者は9月~11月の相場は乱高下相場になると述べてきたが、相場の大きな急落リスクは昨日の相場で終わったと考えている。昨日のトランプ勝利は買い場の転換点だったのではないだろうか・・。ただ、そうはいってもトランプ政権のスタッフやブレーンの顔ぶれをみないとトランプ政権の方針は見えてこない。トランプ・ウォールなどの財政出動が実現可能なのかどうかもわからない。また、トランプはイエレンFRB議長をクビにする(イエレンの任期は2018年2月)と言っているが、過去の歴史をみてもその可能性がないとは言えないだろう。ファンド運用者の多くは、「来年1月のトランプ大統領就任前後にかけて相場が波乱含みになるだろう」と予測している。

日経平均(日足)と9日RSIのシグナル
上段:9日RSI(赤)・9日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:25日エンベロープ±5%(紫)・21日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)

(出所:石原順)

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。

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