雇用統計は、予想よりもトレンドが大事!

 米国の雇用市場は、FRBが懸念するほど過熱しています。BLSの雇用統計によれば、昨年12月から今年5月までの半年間で、米国では約160万人の就業者が増加しました。その一方で、同期間に25万人の雇用が減ったという統計もあります。毎月の非農業部門雇用者数が多いにしても少ないにしても、その数字が正確であるかどうかは疑問なのです。

 コロナ禍以降、米国の雇用市場は急速に変化しています。在宅勤務やフレックス制などの働き方、ネット販売などの小売スタイルの変化、ギグワークやフリーランスの増加、インフルエンサーといった新しい「職業」の登場、セルフレジやセルフサービス、ボランティア活動の普及、早期退職(FIRE)をする人、ミッドライフ・クライシス(中年期の危機)を乗り越えて仕事にとどまる選択をした人、テレワークによる地方移住など、これまでにない仕事スタイルが労働市場に影響を与えています。しかし、雇用統計はこれらの変化を十分に捉えていないようです。

 雇用統計が発表され第一金曜日は、市場参加者が毎月楽しみにしているお祭りの日ですが、予想と実績のギャップに毎回大騒ぎするよりも、よりマクロ的な影響に注目すべきです。例えば、失業率が過去最低水準にあることは、仕事を失う恐怖が薄れていることを意味します。将来に備えて貯金するよりも、今お金を使おうとする人々が増えていることは、米国の景気を支える重要なファクターです。

 また、実質賃金の伸びが緩やかになり、名目賃金の伸びが鈍化することは、米国経済がデフレやハードランディングを回避し、緩やかなインフレの状態でソフトランディングを果たすことを示しています。米国経済の「ゴルディロックス」状態(過熱も冷え込みもない適度な状況)が続く期待が高いということであり、米国資産にとって良いニュースとなります。

 労働市場の構造変化は、働き方スタイルを一変させますが、その反動として「全社員はオフィスに戻るべき」といった復古主義(コロナ禍前の昔に戻りさえすれば、全てがより良くなるという主義)の危険な考え方がはびこることがあります。変化を認識し、それに適応する方がはるかに生産的です。