円の購買力は1995年の高値から3分の1に下落してきた

 年初来の為替市場では、米ドルを含む主要外貨に対して円がほぼ全面安となっています。特に今週は対ドルの円相場が160円台後半まで下落し、37年ぶりの円安・ドル高水準となりました。根強いドル買い・円売りの背景には「日米金利差」や「日米の実質金利差」(名目金利からインフレ率を差し引いた金利の差)に加え、日本で貿易収支の赤字が定着。

 日本の多国籍企業が海外で得た利益を現地で再投資する傾向が強まり、リパトリエ―ション(資金回帰=円買い)が以前と比べて減少してきた需給要因もあります。デジタル収支の赤字拡大や新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を活用した外貨投資拡大も継続的な円安要因とされています。

 FRBのパウエル議長は12日のFOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見で、ドル高進行について問われ「米経済が非常に強いためだ」との見方を示し、「(FRBは)為替の水準を管理しない」と述べました。

 図表3は、「円」の総合的な実力を示す「実質実効為替レート(月次)」の推移を示したグラフです。約60カ国の通貨に対する円の「対外的な購買力」を貿易量や物価水準を基に算出したレート(総合的な通貨指数)です。

 2024年5月時点のレートは68.65で、円の購買力が1995年4月の高値から約3分の1に下落してきた(円安が進行してきた)ことを示します。変動相場制に移行した1973年以前の水準を下回る「円安傾向」が鮮明となっている状況に留意したいと思います。

<図表3>円の実質実効為替レートは高値から3分の1に下落

(出所)日本銀行、Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2024年5月)

 上記した円安傾向は、日本居住者(一般世帯)にとって、物価高が進む中での円の購買力下落を意味します。モノやサービスの輸入コストが上昇しやすく、賃金上昇率が物価上昇率を上回らないと家計を圧迫し続けることとなります。特に利息がいまだ極めて低く(実質金利がマイナスである)現預金の購買力は減退を続けそうです。

 一方、主要外貨に対する円安傾向は、「海外投資(外国株式や外国債券への投資)」の円ベースの投資成果を「為替差益」として押し上げる効果があります。実際、「円換算S&P500(為替ヘッジなし)」の年初来騰落率は+30.8%、1年前比騰落率は+41.6%、5年前比騰落率は+180.5%とそれぞれ同期間の日経平均株価の上昇率を上回っています(26日)。

 円の長期的な購買力低下傾向を考慮すると、(内外金利差を反映してコストが高い)「為替ヘッジ」をしない追加型公募投信やETF(上場投信)などを活用した海外資産への長期分散投資があらためて注目されそうです。

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