中国の米国離れ、世界の自由・民主度低下

 冒頭で、2010年ごろから、中央銀行の金(ゴールド)積み上げ量の増加が目立ち始めたと述べました。つまりこのころから、中央銀行たちの考え方に変化が生じ始めたと考えられます。このころから、少なくても二つ、世界で大きな変化が生じ始めました。

 二つとは、中国の米国債残保有残高が減少し始めたこと、そして自由民主主義指数(世界平均)が低下し始めたことです。端的に言えば前者は「中国の米国離れ開始」、後者は「世界分断の深化開始」です。

 世界がいくつに分かれているのか?という議論はさまざまなところで起きています。IMFは世界を「米国寄り」「中国寄り」「どちらにも属さない」の三つに分かれるとしていますが、自由民主主義指数の低下を基にすれば、筆者は二つだと考えています。

 IMFの分割意図は政治・経済が背景にあると考えられます。

 筆者が考える分割意図は人の本能です。自由と民主的であることを盾に、欲望を全開にして競争をして誰かを蹴落としたり主導権(マウント)を取り合ったりする世界と、欲望を極力抑制・開化させない状態を維持しつつ、少数の権威者の傘の中で特定の考え方をよりどころとして多数が暮らす世界です。どちらの世界も人間の本能が色濃く出ています。(善悪の判断はできません)

 こうした二つの世界の違いは、「開いている」か「閉じている」かです。程度の差はあれども、その中間の状態(開いてもいないし閉じてもいない状態)は存在し得ないため、世界は二つに分割できると言えます。

 以下のグラフのオレンジ線は自由民主主義指数(スウェーデンのV-Dem研究所が集計・公表)で、0と1の間で決定します。1に接近すればするほどその国は自由で民主的であり、0に接近すればするほどその国は自由でなく民主的でないことを意味します。

 グラフのとおり、2010年以降、同指数が0の方向に向かい始めたことは、世界が「閉じている」傾向を強め始めたことを意味します。

図:中国の米国債残保有残高と自由民主主義指数(世界平均)

出所:米国財務省およびV-Dem研究所のデータを基に筆者作成

 それと歩調を合わせるように、中国の米国債残高が減少しています。自由で民主的なことを正義とする西側主要国の資産の保有高を減らすことは、西側諸国と距離を置く(分断が深まる)ことと同じ意味と言っても言い過ぎではありません。

 こうした「中国の米国離れ開始」と「世界分断の深化開始」のタイミングが、中央銀行の金(ゴールド)積み上げ量の増加が目立ち始めたタイミングが同じであることは偶然でないでしょう。

 非西側の主要国である中国の米国離れは世界分断の深化の旗印であり、その分断深化を意識して、資産保全、実物資産への回帰などの目的で中央銀行が金(ゴールド)の積み上げ高を増やしてきたと、筆者はみています。