先進国と新興国の思惑の差が垣間見える

 WGCは、2018年から「中央銀行調査」を実施しています。

 調査項目を主にWGCが作り、YouGov(ユーガブ 英国に拠点を置く世界規模の調査機関。米大統領選など国を挙げた選挙などの際に世論調査を手掛けることもある)の協力の下で行われています。英語版の調査フォームをアラビア語、フランス語、ロシア語、スペイン語に翻訳し、世界中の中央銀行が回答できるようにしているとのことです。

 2024年の調査は2月19日から4月30日に行われ、70カ国の中央銀行から回答が得られ(昨年は59カ国)、そのうち24カ国が先進国、46カ国が新興国でした(先進国・新興国の分類はIMF(国際通貨基金)の定義による)。調査結果の多くが、全体、先進国、新興国に分けて示されています。

図:外貨準備高管理の意思決定に関連するトピックは何ですか?(2024年)(複数回答可)

出所:WGCの資料を基に筆者作成

 上の図は、「外貨準備高管理の意思決定に関連するトピックは何ですか?」という質問の回答結果です。先進国、新興国ともに、「金利水準」「インフレ懸念」「地政学的リスク」の割合が高くなりました。これらの上位三位独占は、ウクライナ危機が勃発したり、高インフレが目立ち始めたりした2022年以降、続いています。

 外貨準備高を保有する際、保有する通貨によって得られる金利の額が変わることから、金利水準が大きな関心事であるのは当然でしょう。自国でインフレ懸念や地政学リスクが高まっていればそうした懸念やリスクが比較的小さい国の通貨を持つ選択をすることになるでしょう。

 先進国と新興国とで差が生じた選択肢もありました。

「世界経済のパワーシフト(Shifts in global economic power)」は、先進国が25%にとどまったものの、新興国は42%に上りました。この結果は新興国の中央銀行ほど世界経済が大きく動いていることを認識し、先進国の中央銀行ほど世界経済は従来と大きく変わらないと認識していることを示唆しています。後に述べる「世界分断」の一端が垣間見えます。

図:金(ゴールド)保有時の意思決定に関連するトピックは何ですか?(2024年)(複数回答可)

出所:WGCの資料を基に筆者作成

 上の図は、「金(ゴールド)保有時の意思決定に関連するトピックは何ですか?」という質問の回答結果です。全体的には「長期的な価値保全/インフレヘッジ」「危機時のパフォーマンス」「効果的なポートフォリオの分散化」などの割合が高くなりました。金(ゴールド)が持つ危機時に注目が集まりやすい特徴が、意識されているようです。

「歴史的地位」について、先進国の中央銀行の78%が選択しましたが、昨年(2023年)の100%から大きく低下しました。先進国の中央銀行の間で、金(ゴールド)は歴史が証明する安定した資産だという認識がやや薄れた感があります。

 社会が複雑化して市場環境が大きく変わったことや、金(ゴールド)以外の選択肢が増えつつあることなどが意識されている可能性があります。先進国の一部も、市場の変化に気が付き始めているのかもしれません。

 また、いくつかの新興国の中央銀行は「制裁への懸念」「政策ツール」「国際通貨システムの変化の予期」などといった、先進国の中央銀行が選ばなかった選択肢を選択しました。

 これは、世界の一部で1970年代後半のような「実物資産への回帰」が進んでいることを示唆しています。「信用をいかに膨らませるか」に注力する先進国の考え方と、正反対の考え方です。このこともまた、「世界分断」の一端だと言えるでしょう。