喜望峰ルートは完全な代替ではない

 足元、危険を回避するため、バブ・エル・マンデブ海峡を通らずに喜望峰を経由する船舶が増えています。以下は、国内大手メディアでも取り上げられたIMF(国際通貨基金)が公表しているバブ・エル・マンデブ海峡と喜望峰の通行量(重量ベース)のデータです。

図:バブ・エル・マンデブ海峡と喜望峰の通行量(7日平均) 単位:百万トン

出所:IMFのデータをもとに筆者作成

 フーシ派による妨害行為が目立ち始めたことを受け、欧州の複数のコンテナ船大手が紅海の航行を回避することを決めた2023年12月中旬から通行量が目に見えて減少しています。代替となったのが喜望峰ルートです。とはいえ、完全な代替とはいえません。バブ・エル・マンデブ海峡経由の通行量の減少が止まらない中、喜望峰ルートの通行量は1月初旬をピークに減少しています。

 以下は、通行した船舶の数です。喜望峰ルートで航行する貨物船とタンカーの数は増加していますが、その増加数はバブ・エル・マンデブ海峡経由の減少数よりも小さいことが分かります。

 喜望峰ルートは東アジア発欧州行きの場合も欧州発東アジア行きの場合も遠回りになるため、喜望峰ルートのデータがバブ・エル・マンデブ海峡経由のデータに追いつくためには数週間程度の時間が必要なのかもしれません。

 とはいえ、すでに喜望峰ルートの通行量と貨物船の数がピークを打った可能性があることを考えれば、時間が経てどもバブ・エル・マンデブ海峡経由を喜望峰ルートが完全に代替することはないのかもしれません。

 遠回りになることで、航行日数や運送コスト(運賃、保険、人件費など)が割高になることが嫌気されている可能性があります。バブ・エル・マンデブ海峡の通行量・船舶数の減少が続き、喜望峰ルートの同数量の頭打ち状態が続けば、物流の目詰まりと流通コストの底上げによる世界的なインフレの再燃が懸念されます。

図:バブ・エル・マンデブ海峡と喜望峰の通行船数(7日平均) 単位:隻

出所:IMFのデータをもとに筆者作成