「台湾有事」を期待した中国人民

 先週、「ペロシ・ショック、台湾問題に前代未聞の緊張走る」と題して緊急レポートを配信しました。8月2日夜から3日にかけて、ナンシー・ペロシ米下院議長が国交のない台湾を訪問(約18時間滞在)したことで、台湾海峡を巡る緊張が一気に高まりました。ペロシ氏訪台に中国政府は激しく反発。経済制裁、世論的攻勢、そして台湾を取り囲むように、4日間の日程で大規模に行った軍事演習などを通じて、米国と台湾を批判、けん制しました。

 2日未明、私は中国国内にいる複数の知人と連絡を取り合っていましたが、皆「今夜動きがあるのではないか」という心境の下、スマートフォンにくぎ付けだったといいます。彼らが言う「動き」とは、ペロシ氏訪台を機に、中国人民解放軍が出動し、中国にとって悲願である台湾統一に一気に踏み切ることを指していました。仮にその動きが現実化すれば、それはすなわち、最近日本でも騒がれている「台湾有事」の勃発を意味します。

 先日、中国で長年ビジネスをしている東証プライム上場企業の経営陣とこの問題について意見交換をしました。うち一人が、「台湾有事が起これば、企業としてはどうすればいいんですかね? ずっと考えているのですが、答えが出ません。事前にどう備え、起こったときにどう動けばいいのか? 何もしないわけにいかないのは分かっているが、どこから手を付ければいいのか…」と途方に暮れていました。

 ペロシ氏が台湾を離れてから1週間がたちました。中国人民解放軍が台湾に武力侵攻することはありませんでした。それが引き金となり、解放軍と台湾軍が、米国軍を交える形で武力衝突に発展することもありませんでした。

 一方、先週の緊急レポートで現状を「prelude to war」(戦争の序曲)と修飾したように、「台湾有事」が現実のシナリオとして迫っている、ペロシ氏訪台がそれをより現実的なものにすることはあっても、その逆はないでしょう。