ペロシ訪台から1週間。この間に中国が行った三つの戦

 この1週間の間に何が起こったのかを振り返ってみます。端的に言えば、緊張は続いた。しかし、平和が崩れる危機的状況には至らなかった、となるでしょう。国際関係の分野において、平和とは「戦争が起こっていない状態」を指します。言うまでもなく、昨今の国際関係そのものは平和ではありません。ウクライナでいまだ戦争が続いているからです。ただ、少なくとも現時点において、台湾海峡が「第二のウクライナ」と化すことはなかった、ということです。

 中国は主に三つの分野で米国や台湾を批判、けん制し、圧力をかけ続けています。

 一つ目が「世論戦」です。外交部を中心に、中国側は集中的、持続的にペロシ訪台がいかに平和を脅かす危険な行為であったかを宣伝して回っています。ネガティブキャンペーンといわれるものです。直近の例をみてみると、8月9日、次期外交部長の呼び声も高い馬朝旭(マー・ジャオシュー)副部長が記者に対し、「米国こそが台湾海峡の平和に対する最大の破壊者であり、地域の安定にとって最大のトラブルメーカーである」とコメントしています。

 二つ目が「制裁戦」です。中国はペロシ氏訪台に対して一連の報復措置を取っています。経済的には、パイナップルケーキの販売で知られる人気菓子店やインスタント麺を扱う著名食品メーカーなど台湾の食品企業100社以上からの輸入を禁止する措置を取ったほか、建設業などに使用される天然砂の台湾への輸出も禁止しました。また、ペロシ氏およびその親族に対する制裁、米中間における軍指揮官対話、国防省間協議、気候変動協議の中止など8項目からなる制裁措置も発表されました。

 三つ目が「軍事戦」です。人民解放軍は8月4日から7日まで四日間にわたり、台湾を取り囲むように6カ所で大規模な軍事演習を行いました。この期間、中国軍の艦船や軍機は台湾海峡の「中間線」を何度も越え、台湾上空を飛行する弾道ミサイルも発射し、台湾本島を攻撃する演習も実施しました。ただこの演習は7日で終了せず、8日、9日も、対潜水艦作戦や海上における突撃行動訓練などが行われているのが現状なのです。