日本にとっても他人事ではない

 今後の見通しを三つの視点から解説していきたいと思います。

1.米中関係は悪化する

 ジョー・バイデン大統領率いる米国政府は、ペロシ氏訪台に対して少なくとも懐疑的な姿勢を示していました。ホワイトハウスや国務省といった政府機関は、ペロシ氏訪台が米国政府の立場を代表するわけではないこと、米国政府は引き続き「一つの中国」政策を堅持することなどを後手後手に弁明しました。中国政府もその点は理解していると思います。

 一方で、先述したように、中国政府の米国政府に対する報復措置は取られました。今後、軍事や外交分野を中心に、米中間の政府間協議は棚上げされ、相互不信は強まり、一方で、中国人民解放軍による台湾海峡付近での軍事活動は常態化していくでしょうから、米国軍との緊張は続きます。

 米中2大国が「対話なき緊張」の関係を続けることは、地域の平和や安定にとっては当然不利に働きますし、そのはざまで生きていかなければならない日本としても、非常に厄介な不安要素となります。

2.日本の安全は脅かされ、日中関係も悪化する

 中国人民解放軍による軍事演習は、台湾の東側でも行われましたが、発射された弾道ミサイルのうち5発が日本のEEZ(排他的経済水域)に撃ち込まれるという事態が発生しました。日本政府は中国側に抗議していますが、中国政府の立場は「中国と日本の関連海域における国境線はいまだ確定していない。よって、中国側は所謂『日本の排他的経済水域』という言い方を受け入れない」(8月3日、外交部記者会見、華春瑩(ファー・チュンイン)報道局長)というもの。

 つまり、そもそも中国には日本のEEZに撃ち込んでいるという認識すらないということで、このような事態は解放軍の同海域における軍事活動が常態化するに伴い、継続的に発生する可能性が高まったと言えます。南西諸島を中心に、日本の安全が脅かされるリスクも同時に高まるということです。

 また、先週、カンボジアで東アジアサミット外相会議が開催され、日中外相会談が予定されていました。中国の台湾海峡における軍事演習に対し、G7(主要7カ国)が「台湾海峡の平和及び安定の維持に関するG7外相声明」を発表、それに反発した中国側が同会談をキャンセルしてきたのです。

 これが何を意味するか。要するに、台湾問題を巡る米中間の事件に、日本が巻き込まれたということです。日本は米国の同盟国であり、西側先進国の一員であり、中国の拡張的行動に対して、一貫して団結した声を発していくのは当然の責務です。しかしながら、それによって、中国が日本に対して強硬姿勢を取り、それが日中間の民間交流や経済関係に影響してくるようであれば問題です。

 足元、「米中関係と台湾問題」が引き金となり、日本の安全は脅かされており、日中関係も悪化しています。

3.中国の内政にとっても不安要素が増大

 ウクライナやゼロコロナで不安視されてきた中国の国内情勢ですが、ペロシ訪台で、不安要素は増大したと言えます。秋には5年に1度の党大会が開かれます。中国にとって台湾問題は核心的利益であり、米中関係は最も重要な対外関係です。それらが同時に緊張化している現状は、習近平(シー・ジンピン)国家主席に難しいかじ取りを要求します。

 経済がなかなか上向いていかない状況下で台湾問題がヒートアップし、中国が国際的に孤立するような事態になれば、習主席の責任問題にまで発展します。党大会を跨いで、中国の政治経済、および国際社会における立ち位置に劇的な変化が生じる可能性もあるのです。

マーケットのヒント

  1. 米国と中国という世界二大国の関係悪化、緊張化は「究極のマクロリスク」になる
  2. 台湾問題を引き金に、日本の安全や繁栄が脅かされる可能性がある、という現実を直視すべき
  3. 向こう3カ月の中国国内情勢に要注目