天然ガスから水素への転換でエネルギー供給を確保

 ロシアへの制裁が長期的な影響を及ぼすと考えられる最後の分野は、欧州のエネルギー供給と水素燃料である。スイフトから排除されたことでロシア経済のほとんどは孤立してしまったが、現在欧州は天然ガス需要の約40%をロシアから輸入しているため、エネルギー分野は制裁から外された。

 他の供給先に変えようにもロシアからのパイプライン以外の輸送手段が確立されていないため、海上輸送に頼るしかなく、この状況は欧州にとっては大きな弱みである。解決策の一つは、家庭用、産業用天然ガスの両方に水素を取り入れることだ。

 天然ガス供給インフラと家庭用機器に手を加えることなく、技術的に20%までは水素を混合することは可能であり、そうすれば欧州のロシアへの天然ガス依存を半減でき、エネルギー政策の改善になるだけでなく、外貨がロシアへ流れるのを減らすこともできる。

 水素燃料の種類については、天然ガスを水蒸気メタン改質して水素と二酸化炭素に分解して作られるブルー水素は、天然ガスの供給がネックとなることから妥当ではない。従って選択肢は再生可能エネルギーを使うグリーン水素か、原子力発電の電力で水を電解して水素を製造するピンク水素である。

 水素燃料への転換は戦略的将来性があるだけでなく、現在高騰している天然ガス価格を考えれば、経済的にも理にかなっているが、現実問題として水素製造能力を即急に強化することは非常に困難である。