今のESG基準がおかしいと考える点

 環境経営はとても重要なテーマです。世界各国が一致して環境重視の基準作りを始めたのは喜ばしいことと思います。

 かつて日本で「4大公害病」が問題となったことがありました。その後、企業が社会に害を与える「外部不経済」を引き起こすことを禁止するルールが整備されたおかげで、日本国内で公害問題は沈静化しました。

 ただし、地球規模あるいは世代を超えた「外部不経済」はまだ解決していません。今のペースで人類が化石燃料を使い続けると、次の世代に重大な外部不経済をもたらすリスクが高くなります。

 それに歯止めをかけるための地球規模のルール作りが始まったことは、喜ばしいことと思います。

 ところが、現在のE(環境経営)基準には、おかしいと思うことがたくさんあります。大きく分けて、2つあります。

【1】電気を動力にするものは、なんでも「善」とされる。

 テスラを「地球環境を守る企業」と言うことに、疑問を感じます。確かに、テスラ車はCO2を出しませんが、テスラ車が使う電気を作るために大量の化石燃料が使われています。
将来、人類が使う電気をすべて自然エネルギーでまかなうようになれば、その時はテスラを環境経営企業と言って良いと思いますが、今はまだそうではありません。
 テスラ車の車体や内装材に、鉄や石油化学製品など化石燃料を使わないと作れない素材がたくさん使われていることも問題と思います。
 さらに言うと、テスラが富裕層しか購入できない高級車メーカーであることも問題と思います。テスラ車の平均出荷単価は現在約5万ドル(約550万円)と高額で、富裕層しか購入できません。
 大衆の手の届く価格帯のEVを出さない限り、地球規模でガソリン車の代替は進まないと思います。近い将来、低価格の大衆普及用EVを大量に生産するのは、恐らくテスラではないと思います。

【2】化石燃料を使う企業はたとえ世界一効率的に使っても「悪」とされる。

 日本の自動車産業が世界でシェアを伸ばし続けてきた背景に、日本車が省エネ・環境技術で優れていた事実があります。それは今も変わりません。今でも日本車は省エネ・環境技術で世界トップクラスの技術を維持しています。
 というと、日本の自動車メーカーがESGスコアのEで、軒並み高い値をとっているように聞こえますが、実際はそうではありません。
 自動車産業など日本企業は「化石燃料の効率利用」で世界トップクラスの技術を持っています。ところが、今主流のESG基準は、どんなに化石燃料を効率的に使っていても、化石燃料を使う限り「悪」とみなす傾向があります。
 世界一燃費の良い自動車を開発しても、ガソリンを使う限りESG基準で「悪」とレッテルを貼られるリスクがあります。
 たとえば、トヨタ自動車のハイブリッド車がそうです。ガソリン車にくらべて、大幅な燃費改善・環境負荷の低下を実現しています。それでもガソリンを使うことが問題視され、欧米主要国では環境車として認められていません。