米雇用統計は第一金曜日とはかぎらない

 冒頭で、米国時間が、「パジャマ トレーダー」の活動時間帯であると、述べました。また、米国時間が「どっちかの夜は昼間」が示す通り、日本と「昼夜がほぼ真逆」であると、述べました。

 冒頭のグラフより、9月23日(木)の午前4時の出来高が、比較的大きいことがわかります。日本は祝日の早朝でしたが、足元の米国経済の状況や今後の同国の金融政策の方向性に関する会見、いわゆるFOMC(米連邦公開市場委員会)後のFRB(米連邦準備制度理事会)議長の会見があった時間帯です。

 この点は、米国時間の夕方前(日本時間の早朝)に行われる、こうした重要イベントを重視した、(強者の?)「パジャマ トレーダー」が一定数、存在する可能性を示しています。

 とはいえ、いかに「パジャマ トレーダー」といえども、人生において売買(運用)をどれだけ優先しているかや、大きなイベントをどれだけ重視しているかは、さまざまでしょう。米国時間のどのタイミングを重視するかは、同一ではないはずです。

「早朝までの夜更かし」は、一般の人になじむ話ではありませんが、もし仮に、自分が「夜更かしをするとしたら、いつか?」と考える時、米国の主要な経済指標の発表時刻が、米国時間の序盤、日本時間の22時過ぎ(夏時間時は1時間前)である点が、ヒントになります。

図:米雇用統計発表直後のNYダウ先物の値動き 単位:ドル

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 米国の雇用統計は、世界の市場関係者が最も注目する経済指標の一つです。米国のGDP(国内総生産)に占める個人消費の割合はおよそ7割と言われ、個人の所得や消費動向に直接的に影響する雇用情勢は、米国経済の方向性をも占うと考えられています。

 また、今年の7月ごろから、米国の中央銀行にあたるFRBにおいて、実施している金融緩和策(通貨の供給量を増やしたり、金利を低い水準に維持したりして、景気回復を促進する策)を、縮小する議論が持ち上がっています。

 この議論の行方に、雇用情勢の動向が深く関わっています。雇用情勢が改善していることが鮮明になっていることを、金融緩和縮小(テーパリング)を開始するかどうかの判断材料の一つにすることと、なっているためです。

 このように、米国の雇用統計は、米国経済の足元の状況を確認したり、同国の金融政策の方向性を占ったりする、重要な統計です。米労働省が毎月1回、前月分の統計を発表します。発表時刻は日本時間の同日22時30分(夏時間時は同日21時30分)です。

 上図のとおり、統計の内容が強かったり(雇用者数の前月比が増えた、失業率が低下した、など)、内容が弱くても、かえってそのことが、金融緩和が継続する思惑を強めたりした場合、米国の主要な株価指数であるNYダウは上昇する傾向があります。

 毎月の米雇用統計は、単体では、株価指数における数年単位の長期的な価格トレンドをつくるきっかけにはならないものの、発表直後の数時間、短期的なトレンドをつくる場合があるため、こうした値動きに注目する「パジャマ トレーダー」は少なくないと、考えられます。

 ちなみに、米雇用統計の発表日は、第一金曜日とは限りません。今月(2021年10月)がそうであるように、第二金曜日(10月8日(金))が発表日となる場合があります。発表日は、「12日を含む週から3週後の金曜日」と定められているためです。

 もし仮に、「夜更かしをする」のであれば、月に一度、米雇用統計が発表される金曜日の夜(21時から24時くらい)なのではないでしょうか。

 取引はせずとも、米国に直接的に関わる米国株やドル/円などの通貨、ドルで取引されているコモディティ(商品)などの価格動向に、注目するだけでも、大きな発見があると思います。

 筆者の話で恐縮ですが、十数年前、初めて米雇用統計発表直前・直後の為替とコモディティの値動きを見た時、「すごく、ダイナミックだ」「ああ…取引の本場は、米国なんだなぁ…」と感じたのを、今でも鮮明に覚えています。