「パジャマ トレーダー」は、すでに存在する模様

 以下のグラフは、東京金融取引所で取引されている、NYダウ証拠金取引の価格と出来高の推移を示しています。期間は、2021年9月21日(火)夕方から10月2日(土)早朝までです。(※現在当社では、「くりっく365、くりっく株365」の取り扱いはございません)

図:東京金融取引所のNYダウ証拠金取引の価格推移と出来高(3時間足 終値)
※日時は日本時間

出所:くりっく株365のデータをもとに筆者作成

 出来高とは、取引の活況度を示す指標の一つです。例えば、買い注文1枚と売り注文1枚が、見合った(成立、約定(やくじょう)とも言う)とき、出来高1枚、となります。出来高が多い時間帯は、取引が活発な時間帯、と言えます。

 NYダウというと米国市場で取引されているように見えますが、「日本国内の取引所」で取引されています。また、価格の単位は「円」です。取り扱いがある「日本の金融機関」を通じて取引ができます。このため、この銘柄は「日本」の色が濃いと言えるでしょう。

 NYダウの値動きに連動することを目指す金融商品を、「日本国内の取引所」で、ドルではなく「円」で、売買できるわけですので、この銘柄はおおむね、日本の投資家のためにつくられた銘柄、と言えるのではないでしょうか。

 この銘柄の時間帯別の出来高に注目します。ここでは、8時から16時までを「日本時間」、16時から19時までを「欧州時間」、19時から翌4時までを「米国時間」とします。グラフの通り、全ての日で、米国時間の出来高が、日本時間の出来高を上回っています。

 先述のとおり、出来高は、取引の活況度を示す指標の一つです。「日本」の色が濃い銘柄の売買が、米国時間に最も活況になるのです。「日本人投資家」…「夜の売買」…「活発化」…と考えたとき、ふと「パジャマ トレーダー」という言葉が頭をよぎりました。

 およそ10年前、インターネット専業の商品先物会社で、深夜、お客さま(個人投資家の皆さま)から寄せられる電話での問い合わせを受けている最中、思いついた言葉です。メッセージ性を持ち、言い得て妙だと思ったのですが、当時はなかなか浸透しませんでした。

 しかし、時代は変わりました。米国株や米国株に連動することを目指す投資信託やCFDなどが、人気を博しています。「米国」が投資の主舞台になりつつある今だからこそ、「パジャマ トレーダー」に再度、注目したいと思い、今回のレポートの題材としました。

※「パジャマ トレーダー」…日本時間の夜、自宅でリラックスしながら「投資の夜活」をたしなむ個人投資家を指す、筆者の造語。

「どっちかの夜は昼間」。米国と日本の時差を確認

 2018年に「ダサかっこいい」で一世を風靡(ふうび)した、DA PUMPのUSAの終盤に、興味深いフレーズが出てきます。「どっちかの夜は昼間」です。このフレーズは、パジャマ トレーダーの活動時間や米国と日本の時差を考える上で、有用です。

 海外旅行になじみがある人の中には、日本と米国を行き来するときは、日付変更線を越えるため、「1日を足し引きする」、具体的には、日本から米国に行くときは1日を引き、米国から日本に帰る時は1日を足して日時を調整する、と覚えている方もいると思います。

 市場関係者が時差を認識する際、筆者としては、以下の考え方が合うと考えています。欧州を含んだ全体像を把握できるためです。時差の考え方のもととなった、天文学や地理学などの発達が英国を起点としていることや、日本が極東の島国であることなども、認識できます。

図:ニューヨークと東京の時差(北半球が冬:欧米通常時間、オセアニア夏時間の場合)

出所:筆者作成

 地表を縦に分割する「経線」の起点であるロンドン郊外のグリニッジ天文台(経度0度)から東に135度の地点に東京、西に75度の地点にニューヨークがあります。両地点は210度分、離れているわけです。

 この210度を時差の目安である「経度15度で1時間の時差(360度÷24時間)」を加味すると、両地点の時差が14時間であることが分かります。これは、欧米が通常時間(夏時間との対比で、おおむね北半球が冬の時)の場合です。

 以下は、欧米が夏時間(サマータイム)の場合です。ニューヨークと東京の時差は1時間縮まり、13時間です。米国は毎年3月中旬に夏時間入りし、毎年11月上旬に夏時間が終了します。欧州の夏時間は、米国よりも数週間遅く始まり、数週間早く終了します。

図:ニューヨークと東京の時差(北半球が夏:欧米夏時間、オセアニア通常時間の場合)

出所:筆者作成

 13時間や14時間という時間差が、どのような意味を持っているかと考えると、「ほぼ半日」というキーワードが想起されます。東京とニューヨークの時差上の関係は「昼夜がほぼ真逆」であり、この点を言い得たのが、「どっちかの夜は昼間」なのです。

 また、図の右側(東側)に、日付変更線があります。夜が明けるのも、太陽が南中するのも、日が暮れるのも、地球の自転により、東側から始まりますが、日付変更線は、地球全体のこれらの起点(時間的な起点)の役割を担っています。

 時間の起点が東であることを示すため、図の右側に「(時間的に)先」、左側に「(時間的に)後」と記しました。

 ニューヨークが夏時間の時、東京との時差は13時間で、時刻は東京の方が13時間先(ニューヨークは13時間後に、東京と同じ時刻になる)、通常時間の時、時差は14時間で、時刻は東京の方が14時間先(ニューヨークは14時間後に、東京と同じ時刻になる)になります。

米雇用統計は第一金曜日とはかぎらない

 冒頭で、米国時間が、「パジャマ トレーダー」の活動時間帯であると、述べました。また、米国時間が「どっちかの夜は昼間」が示す通り、日本と「昼夜がほぼ真逆」であると、述べました。

 冒頭のグラフより、9月23日(木)の午前4時の出来高が、比較的大きいことがわかります。日本は祝日の早朝でしたが、足元の米国経済の状況や今後の同国の金融政策の方向性に関する会見、いわゆるFOMC(米連邦公開市場委員会)後のFRB(米連邦準備制度理事会)議長の会見があった時間帯です。

 この点は、米国時間の夕方前(日本時間の早朝)に行われる、こうした重要イベントを重視した、(強者の?)「パジャマ トレーダー」が一定数、存在する可能性を示しています。

 とはいえ、いかに「パジャマ トレーダー」といえども、人生において売買(運用)をどれだけ優先しているかや、大きなイベントをどれだけ重視しているかは、さまざまでしょう。米国時間のどのタイミングを重視するかは、同一ではないはずです。

「早朝までの夜更かし」は、一般の人になじむ話ではありませんが、もし仮に、自分が「夜更かしをするとしたら、いつか?」と考える時、米国の主要な経済指標の発表時刻が、米国時間の序盤、日本時間の22時過ぎ(夏時間時は1時間前)である点が、ヒントになります。

図:米雇用統計発表直後のNYダウ先物の値動き 単位:ドル

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 米国の雇用統計は、世界の市場関係者が最も注目する経済指標の一つです。米国のGDP(国内総生産)に占める個人消費の割合はおよそ7割と言われ、個人の所得や消費動向に直接的に影響する雇用情勢は、米国経済の方向性をも占うと考えられています。

 また、今年の7月ごろから、米国の中央銀行にあたるFRBにおいて、実施している金融緩和策(通貨の供給量を増やしたり、金利を低い水準に維持したりして、景気回復を促進する策)を、縮小する議論が持ち上がっています。

 この議論の行方に、雇用情勢の動向が深く関わっています。雇用情勢が改善していることが鮮明になっていることを、金融緩和縮小(テーパリング)を開始するかどうかの判断材料の一つにすることと、なっているためです。

 このように、米国の雇用統計は、米国経済の足元の状況を確認したり、同国の金融政策の方向性を占ったりする、重要な統計です。米労働省が毎月1回、前月分の統計を発表します。発表時刻は日本時間の同日22時30分(夏時間時は同日21時30分)です。

 上図のとおり、統計の内容が強かったり(雇用者数の前月比が増えた、失業率が低下した、など)、内容が弱くても、かえってそのことが、金融緩和が継続する思惑を強めたりした場合、米国の主要な株価指数であるNYダウは上昇する傾向があります。

 毎月の米雇用統計は、単体では、株価指数における数年単位の長期的な価格トレンドをつくるきっかけにはならないものの、発表直後の数時間、短期的なトレンドをつくる場合があるため、こうした値動きに注目する「パジャマ トレーダー」は少なくないと、考えられます。

 ちなみに、米雇用統計の発表日は、第一金曜日とは限りません。今月(2021年10月)がそうであるように、第二金曜日(10月8日(金))が発表日となる場合があります。発表日は、「12日を含む週から3週後の金曜日」と定められているためです。

 もし仮に、「夜更かしをする」のであれば、月に一度、米雇用統計が発表される金曜日の夜(21時から24時くらい)なのではないでしょうか。

 取引はせずとも、米国に直接的に関わる米国株やドル/円などの通貨、ドルで取引されているコモディティ(商品)などの価格動向に、注目するだけでも、大きな発見があると思います。

 筆者の話で恐縮ですが、十数年前、初めて米雇用統計発表直前・直後の為替とコモディティの値動きを見た時、「すごく、ダイナミックだ」「ああ…取引の本場は、米国なんだなぁ…」と感じたのを、今でも鮮明に覚えています。

「パジャマ トレーダー」の3つのメリット

 ほんの数年前まで、日本の投資家を取り巻く環境は、多くの場合、「国内の取引所」「価格の単位は円」が一般的でした。しかし近年、米国株ブームが席巻し、環境が大きく変わったことは、言うまでもありません。

 投資家のみなさまが、自ら考え、意思決定をしておられるわけです。この点は、日本国民の金融リテラシーの底上げという点で、日本の金融業界にとって大きなプラスと言えるでしょう。

 こうした流れをさらに加速させるために、業界を挙げて、これまで以上に、さまざまな策を講じていく必要があると考えます。自ら考え、いち早く米国時間(日本時間夜)の取引に励んでいる「パジャマ トレーダー」の皆さんを助け、そうした投資家を増やす策が、まさにそれに該当します。

 米国株やCFD、FXなど、米国と関わりが深く、かつ、日本時間の夜の時間帯に取引ができる金融商品に関するサービスを、さらに、拡充することが必要でしょう。

 また、夜の時間帯限定で取引手数料を割り引くキャンペーンを実施したり、米国在住の著名人(投資家・芸能人・YouTuberなど)とともに、米国の昼間(日本時間の夜間)にオンラインセミナーを実施したりすることなども、今どきの策として、有効ではないでしょうか。

「パジャマ トレーダー」が取引しやすい環境が広がれば、同トレーダーたちは、夜の自宅というリラックスした環境の中で、ゆっくり、深く、取引のことを考えられるようになります。この点は、投資家の皆さまの金融リテラシーをますます向上させることに、つながります。

図:「パジャマ トレーダー」の3つのメリット

出所:筆者作成

 普段はスマホでもよいかもしれませんが、相手にしている分野が、情報量が比較的多い傾向がある、投資の分野である以上、最低でも月に1回、2時間から3時間程度、パソコンを使って、ゆっくり、深く考える時間を設けることが必要だと、筆者は常々、考えています。

 取引をしたり、考えたりする時間帯は、日本時間の日中だけでありません。情報収集や取引をするツールは、スマホだけではありません。夜の自宅のパソコンの前にこそ、収益機会や、ダイナミックでワクワクする値動きや、投資スキルを磨く機会があると考えます。

 米国時間のリアルタイムの値動きにふれたことがない人や、夜にパソコンの前でゆっくり深く考える時間を設けていない人がおられましたら、以下の参考2をもとに、取引はせずとも(もし取引をする場合は、長期の資産形成のための資金と別の資金で、リスク管理を徹底して行う)、是非、夜、自宅でゆっくり(パソコンで)、値動きをご覧になってみて下さい。

[参考1] 経済カレンダー 米雇用統計などの経済指標の発表日時がわかります。

[参考2] 楽天証券のCFD取引銘柄