ローマ帝国の「ソリドゥス」から見る基軸通貨の変遷

 ローマ帝国で4世紀に発行されていた金貨「ソリドゥス」は非常に純度の高い金貨だったそうだ。ほぼ純金に近い約4.5グラムの金貨で、政府はソリドゥスの価値と純度を維持するために細心の注意を払っていたという。

 その後、西ローマ帝国が滅び、ビザンツ帝国(東ローマ帝国)に覇権が移ったのちもソリドゥス金貨は当初とほぼ同じ純度を保ち、ソリドゥスに対する信用は非常に高く、世界中のさまざまな部族や王国が貿易や貯蓄のためにこの金貨を使用していた。

 金融サービスを手がけるソブリンマンのサイトにソリドゥス金貨の歴史から基軸通貨の変遷を探る「How Long Will The US Dollar's Dominance Last?(米ドルの優位性はいつまで続くのか?)」とするブログ記事が掲載されていた。通貨の歴史を簡単におさらいしてみよう。

 ソリドゥスが導入されてから700年ほどが経過した11世紀半ばになると、帝国の政治的、経済的、軍事的な力の低下とともに、当時の皇帝たちは通貨の価値を下げ始めた。世紀末にソリドゥス金貨の金の純度は33%にまで低下した。

基軸通貨は変遷してきた

出所:ゼロヘッジ

 当時広く貿易や貯蓄に使われていたソリドゥスが急速に価値を下げたため、商人たちは他の選択肢を探すことになる。同時に、ベネチアやフィレンツェなどイタリアの都市国家が急成長し、独自の金貨を鋳造するようになると、ソリドゥス金貨に代わって国際貿易に使われるようになった。

 実際、歴史を振り返ると、権力や富の移動と同じように、基軸通貨は歴史的に変遷してきた。例えば、スペイン帝国が世界の覇権を握っていた際には、スペインの通貨が圧倒的な力を持っていた。

 しかし、スペインの富と権力が衰退すると、600年代から1700年代にかけてオランダのギルダーがそれにとってかわり、欧州の貿易を支配した。1800年代から1900年代初頭にかけては、大英帝国とポンド・スターリングだった。

覇権国の変遷

出所:レイ・ダリオ : 「The Changing World Order」(リンクトイン)

 基軸通貨がその地位を維持しているのは、世界の人々が通貨の健全性に対する信頼、発行国の力と名声に対する信頼を持っているからである。しかし、世界はいま、米国に対する信頼を持っていると言えるだろうか。

 ソリドゥス金貨が外国の商人たちからの信頼を失い、新たな選択肢を探し始めた時のように、現在、すでに国際的な銀行や多国籍企業、外国政府が、米ドルからの分散を静かに始めている。これは確かに一夜にして起こるものではない。しかし、既に進んでおり、ある日突然コップの水がこぼれ落ちるように起こるのだろう。