銘柄コメント:TSMC(10~20%の値上げを行う模様)

1.TSMCが10~20%の値上げを行う模様

 2021年8月25日付けで台湾の複数のメディアが報じたところによると、TSMCは2021年10-12月期以降に10~20%の値上げを行うことを顧客に通知した模様です。それらの報道によれば、TSMCは2021年10-12月期以降、7ナノから先の先端プロセスで10%、供給不足になっている12ナノ以前のプロセス(汎用半導体向けプロセス)では20%の値上げを行うとのことです。また、一部企業向けでは8月25日から即日実施された模様です。TSMCは、従来通り価格については一切コメントしないとしています。

 TSMCは最先端プロセスへ大型設備投資を実行中であり、投資回収期間も長引く傾向にあります。そのため、業績維持のために全面的な価格引き上げに踏み切ることになった模様です。

2.値上げが実現すれば、業績に与える効果は大きい

 表8は現時点での(値上げ前の)TSMCの楽天証券業績予想です。楽天証券では、2022年12月期のTSMCの業績を、売上高2兆800億台湾ドル(前年比30.0%増)、営業利益8,700億台湾ドル(同35.9%増)と予想しています。TSMCの売上構成は、7ナノから先の先端半導体と10ナノ台から以前の汎用半導体の割合がほぼ半々なので、2022年12月期に平均15%の値上げを行うならば、2022年12月期の売上高と営業利益に各々3,120億台湾ドルが上乗せされることになります。すなわち、2021年10-12月期の値上げを無視して値上げ後の2022年12月期と値上げ前の2021年12月期(楽天証券予想では、売上高1兆6,000億台湾ドル、営業利益6,400億台湾ドル)を単純比較すると、2022年12月期営業利益は前年比84.7%増になる計算となります。

 このように値上げが実現すれば(先端から汎用までの半導体需給の逼迫度合いを考えれば、値上げは実現すると予想されます)、業績の大幅増益が実現することになります。このことは、TSMCが進めている2021年12月期から3年間で1,000億USドルの設備投資の実現可能性を保証するとともに、設備投資上乗せの可能性をも示唆するものです。

 またTSMCの値上げは、TSMCから半導体を調達しているファブレス半導体会社、AMD、エヌビディア、クアルコムなどの値上げにも結び付くと思われます。サムスンなど他の大手ファウンドリや自社で生産している大手ロジック半導体会社(例えばNXP、インフィニオン、ルネサスエレクトロニクスなど)も追随して値上げする可能性があります。TSMCからの調達価格が上昇した場合、今の半導体不足の状況下では、TSMCから半導体を調達しているファブレス半導体メーカーは調達コストの上昇以上の値上げを行う余地があり、このことはそれらファブレスの業績向上に結び付くと思われます。最終需要家(アップルやスマホメーカー、パソコンメーカーなど)は今の需給関係の下では値上げを受け入れざるを得ないと思われます。

表8 TSMCの業績

株価 585.00台湾ドル(2021年8月25日)
株価(NYSE ADR) 117.03米ドル(2021年8月25日)
時価総額 15,169,050百万台湾ドル(2021年8月25日)
発行済株数 25,930百万株(完全希薄化後)
単位:百万台湾ドル(1台湾ドル=3.93円、0.036ドル)、台湾ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:TSMCは台湾市場に株式を、ニューヨーク市場にADRを上場している。ここでは台湾市場の株価によってPERと時価総額を計算した。

3.今後6~12カ月間の目標株価は前回の150ドルを維持する

 TSMCの今後6~12カ月間の目標株価は前回の150ドルを維持します。値上げすると値上げ分が営業利益にそのまま上乗せになるため、業績への効果は大きなものになると思われます。

本レポートに掲載した銘柄:エヌビディア(NVDA、NASDAQ)アプライド・マテリアルズ(AMAT、NASDAQ)TSMC(TSM、台湾、NYSE ADR)