リスク要因2:デルタ株のまん延

 次に、新型コロナウイルスです。国家衛生健康委員会の発表によれば、8月16日、新たに確認された感染者は42人。内訳は、本土症例6人(江蘇省3人、湖北省3人)、輸入症例36人(雲南省15人、広東省9人、上海市7人、広西チワン族自治区2人、山東省1人、四川省1人、陝西省1人)。17日午前0時時点で、感染者数は1,928人、うち重症者67人となっています。

 中国では一時期、「感染者ゼロ」が続きました。当局はこれを功績として掲げ、人民は正常な生活を満喫してきました。故に、どこかの地域で一人でも感染者が出ると、当局や世論は大騒ぎ、対象となる地域を即座にロックダウン(都市封鎖)する応急措置を取ってきました。

 私の大学時代の同級生(男性、36歳、大手国有企業勤務)は、「中国では数人の感染者が出ただけでも“戦時下”になる。仮に日本のように2万人を超すような事態になれば、全国を完全ロックダウンし、一切の外出を禁止するのは間違いない」と言っていました。

 8月16日、国家衛生健康委員会の馬暁偉(マー・シャオウェイ)主任が新華社の取材に対して次のように語っています。

「現在、世界各国で新型コロナの感染が再び拡大し、かつウイルスは頻繁に変異している。デルタ株は加速的に広がっている。我が国にとって、外国からの逆輸入防止圧力は高まっている…7月以来、南京、揚州、鄭州といった地域でクラスターが発生したが、8月14日の時点で、16の省で感染者が出ていて、中高リスク地域は150に及ぶ。短期間、他の発生源、他の地域における発生は、2021年以来、我が国を最も深刻で複雑な感染防止情勢に直面させている」

 中国は9月入学で、小中高、大学生を含めて、これからキャンパス内に一斉に集まってきます。中国の大学は全寮制ですから、夏休みを経て、地元から大学へ移動する過程で新型コロナウイルスに感染すれば、キャンパス内でクラスターが発生する確率も一気に高まるでしょう。

 最近、大学時代の同級生(天津市在住、女性)から、9月に小学校に入学する彼女の子供に関する話を聞きました。本来であれば、夏休みの期間中に、祖父母やいとこが遊びに来る予定でした。しかし、7月以来、省をまたぐ移動に制限が加わると同時に、省外から天津市へ赴き、帰ってきた段階で2週間の隔離が要求されるようになりました。さらに子供は省外からやってきた人間と濃厚接触したと見なされ、入学に支障が出る可能性大とのことで、親族は訪問の予定をキャンセルしていました。

 このように、日本の10倍以上の人口を抱える中国全土において、東京都の100分の1の感染者数が出た現段階で、移動規制、人流抑止、都市封鎖を断固徹底し、違反者には厳格な処罰が下されているのです。私の知人の間では、「ここまでやるのか」「人道的ではない」といった声が聞かれますが、世論全体としては、ここまで徹底した措置を取ることで、新型コロナウイルスの感染拡大を初めて封じ込めることが可能となり、結果的に経済社会の運営にも有利に働くというのが、官民の間で形成されてきたコンセンサスのようです。