人民解放軍女性幹部はアリババ社、ジャック・マーをどう見ているのか?

 今回の「アリババ罰金事件」を分析する上で、中国の消費者たちがどう捉えているのかというのは重要な要素です。アリババ社がこれまで発展してきた最大のよりどころが、14億人から成るマーケットだからです。

 総じて言えば、今回の当局による決定を、中国の消費者たちは「しかるべき」「当然」「断固として支持する」と捉えているというのが私の見方です。なぜか。当局による同社への罰金が発表された直後、私は、旧知の人民解放軍女性幹部(40代)と話をする機会があり、この事件についても若干触れました。軍人として国家の安全、社会の治安を死守する立場にある彼女ですが、その立場を超えて、一国民、消費者としての考え方は、多くの中国人民に通ずるものがあると解釈しました。

 以下、私(K)と彼女(J)の会話の記録を書きとどめることにします。

K:当局のアリババへの処罰をどう見ていますか? 必然的なのでしょうか?

J:おっしゃる通り。当然そうあるべきという類いの対応だ。世論の注目度も高い。故に、党としても慎重に対処した結果だ。

K:アリババは確かに市場を独占していたとお考えですか?

J:そう考えている。この辺でしっかり頬をたたいておかないと、ジャック・マーは神様になってしまう。党としてそれを容認するはずがなかろう。人民も容認しない。取引先に二者択一を迫る、独占的で、高圧的なジャック・マーのやり方に、人民は強い不満を抱いていた。

K:なるほど。長期的視点から、人民や市場全体の利益を考慮した上でたたいたのですね。

J:ただ、たたいたのは右の頬だけだ。今回の処罰が引き金となり、市場や世論が中国経済に対して悲観的になることを我々は望んでいない。処罰を軽くしたのには、そういう事情もある。仮にこれが米国だったら、アリババは分割を命じられた可能性すら大いにあろう。その意味で、今回の処罰は「小警告」に過ぎないといえる。

K:党として、アリババへの自信や期待は揺らいでいますか? 市場や世論の同社への見方についても何か思うところはありますか?

J:揺らいでいない。ジャック・マーは調子に乗り過ぎていた。自分には何でもできる、みんな自分の言動を許してくれると勘違いしていた。いまは反省しているだろう。仮に、彼が今回の「小警告」を真摯に受け止めなければ、党としては「大警告」を出すだろうが、今のところ、その心配はなさそうだ。

K:党としても、アリババのような企業、マー氏のような実業家を必要としているということですね。

J:無論だ。アリババやジャック・マーが、党が定めた政策やルールを軽視して中国で成長することはあり得ない。と同時に、彼らは党にできないことをやっている。我々は互いに互いを必要としている。

 米市場や香港市場に上場するアリババ社にとって、株主には多くの外国人投資家が含まれます。しかし、同社が成長していく上で必要不可欠なのが14億人から成る巨大な中国マーケットです。そう考えると、当局のアリババ社への処罰が、中国人消費者たちから支持されているという現状は大きな意味を持つといえます。3,000億円で当局と“和解”し、引き続き14億の消費者たちにサービスや商品を提供していける権利を得たのですから。安いものです。