「米中貿易戦争」が“再発”する可能性はどれくらいあるか?

 問題は、これらの分野が、米中間の通商、ビジネス関係にどう影響するかです。

 トランプ政権時における一つのポイントは、米国側が、中国との貿易から巨大な赤字が生まれ、米国の雇用が失われている背景には、中国が知的財産を尊重しない、技術移転を強制する、市場開放が不十分、産業スパイをやってきたからだと指摘し、このような問題が発生している根源的な原因を中国共産党一党支配体制そのものに見出したことにありました。これに中国側が「内政干渉」や「主権侵害」の観点から反発したのです。経済を政治的に扱うなと。

 この点、バイデン政権はどのようなアプローチを取るでしょうか。グッドニュースとバッドニュース、それぞれあると現時点で見ています。

 まずバッドニュースですが、バイデン政権として「米国の商品を買え(バイ・アメリカン)」を掲げ、米国の産業や雇用者の利益を守るという、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」を彷彿(ほうふつ)とさせるような、保守的な産業政策を取ろうとしています。米国との公平な競争、市場の秩序をゆがめるような中国政府、企業への行為には強硬的に対処していくでしょう。

 次に、1月23日(米東部時間)、バイデン政権で大統領報道官を担当するジェン・サキ氏が、記者会見にて、記者からの中国に関する質問に答える形で、次のように指摘しています。

「我々は中国との深刻な競争関係にある。21世紀における中国との戦略的競争は確定的な特徴である。中国は米国の労働者の利益を損ない、米国の科学技術における優位性を鈍らせ、我々の同盟国や国際組織における影響力に脅威を与えている」

「過去数年、中国は国内ではより権威主義的になり、海外ではより拡張的な動きをしている。北京はいま我々の安全、繁栄、価値観に重大な形で挑戦しようとしており、それは米国に新たなアプローチを要求している」

 これらの発言からも容易に見て取れるように、バイデン政権は経済、貿易を含めた、中国側の行動を厳しくチェックしていこうとしています。そのたびに、それなりの摩擦や衝突は生じるでしょう。

 一方で、グッドニュースもあります。

 それは、サキ報道官が「戦略的忍耐」を持って中国側と付き合っていくと発言したことです。トランプ政権が上場廃止を命じた中国の国有通信会社をどう扱うか、ファーウェイ社を含め、米国政府のエンティティ・リスト(米国にとって貿易を行うには好ましくない相手と判断された、米国外の個人・団体などが登録されたリスト)に入っている企業をどう評価するかといった問題に関しては、同盟国やパートナー国、民主党と共和党、各政府機関を含め、内部で垣根を超えて慎重に査定をし、その上で判断すると言っています。

 この意味で、仮に米中間で通商摩擦が再度勃発するにしても、そのプロセスはより透明性と予見性を確保したものであり、かつ大統領やホワイトハウス、担当機関だけではなく、野党や他国の意見や要望も聞き、意思疎通、政策協調をした上で施される措置になる可能性が高いといえるでしょう。この意味で、貿易戦争リスクは、習・バイデン体制では、前体制と比べて、軽減されるものとみています。

 そして最後に1点、習近平政権が、バイデン政権の対中政策にどこまで反発するか、どう反発するか。これを測る上で、極めて重要な基準があります。それは、中国との通商関係をマネージする上で、中国側の問題点やその発生源を中国共産党一党支配体制に見出し、そこの改善を米国側が求めるかどうかであるというのが、私の基本的な見方です。

 仮にバイデン陣営がこれをやってしまうと、習近平陣営としては、国家主権と民族の尊厳が脅かされたとし、後に引けなくなり、再び「戦狼外交」を展開せざるを得なくなるでしょう。

 現段階で、私はこのシナリオが現実化する確率を50:50と見ています。展開次第では、マーケットが米中リスクに大きく揺さぶられる局面が生まれるでしょう。

 私自身、引き続き情勢を観察、分析し、適宜このレポートで報告していきたいと思います。