バイデン政権で米中関係はどうなるか?

 それでは、米国との関係でどうかという視点から、習近平演説、特に上記5つの段落を分析してみると、二つのシグナルがくみ取れるように思われます。

 一つは、中国として、経済、貿易、科学技術、ビジネスといった分野では、米国と「戦争」を繰り広げたくない。イデオロギーや政治体制、発展モデルの差異を理由に、これらの分野の発展や協力をせき止めるのはナンセンスだと考えているという点です。

 二つ目に、一方で、仮に米国が中国の内政に干渉し、核心的利益を脅かすような行為に及ぶ場合には、そこには断固として反対するという点です。香港問題、台湾問題、新疆ウイグル問題などがこれに相当します。

 この2点を押さえた上で、今後の米中関係を占う中で私が核心的に重要だと考えるポイントを指摘します。

 上記の二つ目に関しては、状況は全く楽観視できません。

 人権に関わるテーマには、香港、新疆ウイグル問題を含め、バイデン大統領は、前政権以上に、原則と価値観を前面に出しながら、中国共産党の言動を監視し、要求していくでしょう。

 尖閣諸島を含めた東シナ海、南シナ海、台湾海峡を含めた安全保障の分野でも、バイデン大統領は、前政権以上に、原則や規範を前面に出しながら、日本やオーストラリアなど、考え方、価値観、戦略的利益を共有する国家、特に同盟国と連携し、中国の現状変更をもくろむ拡張的行動を抑止していくでしょう。そして、その都度米国と中国当局の間でののしり合い、言い争い、場合によっては制裁措置も出てくるでしょう。

 その例を挙げます。前国務長官のポンペオ氏は退任間際の1月19日(米東部時間)、中国共産党の弾圧がウイグル族への「ジェノサイド」だと認定すると発表しました。これに対して、バイデン大統領が次期国務長官に指名したアントニー・ブリンケン元国務副長官も、「それは私の判断でもある」と、上院外交委員会での指名承認公聴会で明確に同意し、トランプ政権下で行われた対中政策の多くを踏襲していく立場を表明しています。ブリンケン氏は、「中国はすべての国の中で、米国の国家安全保障にとっての最大の挑戦」と位置付けた上で、米国は中国との競争に打ち勝つことができるとも主張しています。

 また、国防長官に指名されたロイド・オースティン元中央軍司令官も、同公聴会の席で、「すでに地域覇権国」である中国を「最優先事項」に位置付け、米国が中国に対して軍事的優位性を維持するために働いていく意思を示しました。

 政権発足後の1月23日には、米国務省が政府としての公式声明を発表し、中国が台湾に対して威嚇的行動を取ってきた経緯に懸念を示し、台湾に対する軍事的、外交的、経済的圧力をやめるよう迫り、民主主義を共有する台湾との関係を深化する立場も明らかにしています。

 このように、人権と安全保障に関わる分野では、米中間で早くも攻防が展開されており、この状況は今後4年間断続的に発生していくでしょう。マーケットを随時翻ろうする地政学リスク、米中リスクという意味で、軽視できません。