習近平が発信した5つのメッセージから見る米国への注文と警告

 ここからは、習近平がどのようなメッセージを発したのか、私たちはそこから何を読み取るべきかを検証していきたいと思います。

 全体的には、「人類が依然として新型コロナウイルスに見舞われ、世界経済が打撃を受ける中、各国が結束し、マクロ経済政策を協調させ、経済のグローバリゼーションと多国間主義、国連や国際法を重んじながら、昨今の困難を乗り越えるべきだ。中国としてそのために尽力する。WHO(世界保健機関)や気候変動に関する『パリ協定』といった舞台で各国と共働し、グローバルな課題に立ち向かう用意がある。改革開放という国策を堅持する。持続可能な発展を推進する。科学技術やイノベーションを盛り上げる」といった当たり障りのない、異論を唱えようがない枠組み、内容で演説は展開されました。

 世界第2の経済大国として、コロナ禍で唯一プラス成長を達成する見込みの主要国として、これまで以上にリーダーシップを発揮し、あわよくば「世界の警察官」としての地位を狙うということでしょう。

 一方、「貿易戦争、科学技術、香港問題、台湾問題、新疆(しんきょう)ウイグル自治区問題、新型コロナへの対策などをめぐって混迷したトランプ政権時の米中は、バイデン米政権になって、互いにどのように付き合っていくのか、米中関係はどう変わるのか」、このような角度から習近平の演説を検証してみると、留意に値するポイントがいくつか見えてくるのです。

 習近平は演説を通して、「米国」(中国語で「美国」)という言葉を一度も使いませんでした。ただ、全体的に、バイデン政権に向けた注文、警告、けん制という論調であふれかえっていました。あえて名指しをしないところに、中国の外交スタイルがにじみ出ており、重い圧力を強かにかけているとも言えます。

 例えば、習近平は次のような主張をしています。少し長くなりますが、私から見て、中国が米国に何を求めるか、世界経済へどうコミットしていくかを理解する上で重要だと判断する、以下5つの段落を見ていきましょう。

「開放性と包容性を堅持すべきだ。封鎖的、排他的になるべきではない。多国間主義の本道とは、国際問題はみんなで話し合って取り組む、世界の前途や命運は各国が共同で掌握(しょうあく)すべきだというものだ。国際的に自らの“勢力圏”を作ったり、“新冷戦”をやったり、他者を排斥、威嚇、恫喝(どうかつ)したり、何かあればすぐにディカップリングだ、供給中断、制裁だと言い、人為的に相互の隔絶を引き起こすやり方は、世界を分裂と対抗に追いやるだけである」

「開放型の世界経済を構築すべきである。断固として多国間貿易体制を守るべきである。差別的、排他的な基準、規則、システム、および貿易、投資、技術の交流を妨害する高い障壁を作るべきではない」

「協商と協力を堅持し、衝突、対抗すべきではない。各国の歴史や文化、社会制度に違いが存在することは、対立対抗の理由にはならない。それは協力の原動力になる。差異を尊重、包容し、他国の内政へ干渉しないこと、対話で摩擦を解決するのだ。歴史や現実は我々に今一度伝えている。昨今の世界において、対立や対抗の道へと進み、冷戦、熱戦、貿易戦争、科学技術戦争などを行うことは、最終的に各国の利益を損害し、国民の福祉を犠牲にする」

「冷戦的思考、ゼロサムの旧理念を捨てるべきだ。相互に尊重、理解し合い、戦略的意思疎通を通じて、政治的相互信任を増進すべきである。公平、公正な競争を提唱すべきである。追求すべきは、追いつけ追い越せの精神の下、共に向上する陸上の試合であり、相互に殴り合う、生きるか死ぬかの格闘技の試合ではない」

「経済グローバリゼーションとは、社会生産力が発展していくための客観的要求と科学技術進歩の必然的な結果である。新型コロナを利用した脱グローバリゼーションやディカップリングは、どの国家、市場の利益にもならない。中国は終始経済グローバリゼーションを支持する。対外開放という基本的な国策を断固として実施していく」

 言っていることはもっともですし、まさに国際秩序はそうあるべきで、中国にもそのような行動を取ってもらいたいと思うしかないでしょう。

 一方で、習近平という中国の最高指導者がこのような発言をする中で、「ツッコミどころ」は少なくないと私も思います。

 例えば、公平な競争と言いながら、中国政府は市場の秩序を歪(ゆが)めるような補助金を国有企業に与えているではないか。

 対外開放と言いながら、言論の自由を弾圧し、インターネットへのアクセスを厳格に規制しているではないか。

 結束や協力と言いながら、尖閣諸島を含めた東シナ海や南シナ海で挑発的、拡張的な行動を取っているではないか。

 開放性と包容性と言いながら、国内では中国共産党が主張するイデオロギーや信条とは異なる価値観、意見、信仰を認めないどころか、容赦なく攻撃しているではないか――。

 国際社会としては、引き続き中国に対して「言ったからには取り組んでください」という点をしつこく要求していく必要があるでしょう。中国が大国として責任ある行動を取ってくれることが、地域の秩序にも、マーケットの成長にも、国際関係の安定にもつながっていくのは言うまでもありません。