バイデン~習近平ラインで米中対立は緩和するか?

 バイデン勝利という結果が覆されそうになく、トランプ陣営の中でも諦め感が漂うようになってきた11月13日、中国政府はようやく重い腰を上げました。同日に開かれた外交部の定例記者会見にて、汪副報道局長が「われわれは米国人民の選択を尊重する。バイデン氏とハリス氏に祝賀の意を表したい」とコメントしたのです。1月20日にホワイトハウスが正式にバイデン大統領のものとなるまで油断はしないものの、中国政府として、バイデン政権を相手に対米関係を管理すべく、これから本格的に準備を整えていくでしょう。

 米大統領選投票日をまたいでの米国滞在中に私は、前副大統領の時代からバイデン氏の対中政策アドバイザーを務めてきた人物とニューヨークで面会しました。この人物によれば、バイデン氏は習近平氏のことを「スマートで、プラグマティック。問題解決のためには周りの意見に耳を傾ける人間だ」と評していて、副大統領~国家副主席だったころから緊密なワーキング・リレーションシップ(仕事の関係)を構築してきており、意思疎通にも自信を持っているとのことです。バイデン氏側のこんな認識を、習近平氏側も理解しているでしょう。米国内における政権移行期を注視しつつ、特にバイデン大統領を外交面から支える国務長官や国家安全保障担当の大統領補佐官、そして通商交渉にとってのキーマンとなる通商代表部代表、財務長官、商務長官あたりの人事を予測しながら、バイデン氏側と意思疎通、政策協調するためのメカニズム構築を急ぐものと思われます。

 中国共産党を名指しで批判し、競争を煽(あお)り、真正面から対抗するスタイルのトランプ政権の外交よりは「全然マシ」(中国政府駐米外交官)なのでしょう。しかし、習近平政権が懸念しているのは、バイデン政権が対中政策として自由や民主主義といった価値観を掲げ、多国間主義と同盟ネットワークを再構築する形で、対中包囲網を張るシナリオです。バイデン政権は、インドパシフィック戦略、QUAD(米、日、インド、オーストラリア)といった多国間の枠組みに、中国の拡張的な行動(例えば南シナ海や5G[第5世代移動通信システム]問題)を警戒する東南アジアや欧州諸国を巻き込み、中国の経済、軍事政策をけん制してくると、共産党指導部は本気で予測しています。そして、米国がトランプ政権発足と同時に脱退したTPP(環太平洋経済連携協定)に回帰する局面を警戒しています。