米中対立の緊張化は香港市場と日本市場のリスク要因に

 一方、米国と中国の政治的・外交的緊張を受け、香港市場のセンチメントが7月以降悪化した状況には要警戒です。図表2は、米ダウ平均、香港ハンセン指数、日経平均の推移を示したものです。

 米ダウ平均が3月以降の戻り高値を更新した一方、日経平均の上値が重い要因として「香港を巡る不透明感」が強くなったことも挙げられます。ポンペオ演説(7月23日)を契機に、米国は中国共産党政府に対する強硬姿勢を色濃くし、米中対立が思わぬ「激突」に発展する事態を市場が警戒しはじめた感があります。

 中国は香港の政治的統治にかかわる「一国二制度」を事実上撤廃。「香港国家安全維持法」を成立させました(6月30日)。米中両国は互いの総領事館(米国はテキサス州ヒューストン、中国は四川省・成都の領事館)の閉鎖を命じ、香港では多くの民主化運動指導者が逮捕されました。

 米国は「台湾旅行法」(2018年成立)にもとづき、政府高官(厚生長官)を台湾に派遣。中国が主張する「核心的利益」を挑発する事態となっています。

 米中双方が「ルビコン川」を渡るような応酬を繰り返すことで、「緊張」が「危機」に一段と悪化するか否かを注視すべきでしょう。

<図表2>「米中対立リスク」を警戒する香港市場に注意

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019年7月初~2020年8月12日)

 米国政府は国内の通信、アプリケーション、クラウド、ケーブル事業に関し中国企業の関与を防ぐ措置を決めました。

 トランプ大統領は、ティックトックや微信(ウィーチャット)が「米国の安全保障上の脅威」となるとし、米国人・米国企業に対し使用を禁止する行政命令に署名。米中関係の悪化とその影響は、同盟国・日本のサプライチェーンや業績見通しのリスクになり得ます。

 こうした強硬策を、コロナ危機で悪化した対中世論を利用したトランプ大統領のパフォーマンスとの見方もあります。一方、対立激化で自らの経済が被るリスクを意識するかのような中国の抑制的姿勢も感じられます。

「駆け引き」にとどまるうちは不安材料ですが、米・中・日の企業活動に与える事案が顕在化すると、投資家のリスク回避姿勢を促す展開となり、短期的にせよ株価調整要因となる可能性も否定できません。