世界株高は「世界経済サプライズ指数」の改善が追い風

 米国市場のS&P500指数は最高値に迫る株高となっています。新型コロナ感染拡大を巡る不安が拭えないなか、FRB(米連邦準備制度理事会)による金融緩和長期化期待で「長期実質金利(米10年国債利回り-期待インフレ率)」は▲1.0%前後で推移しています。

 確定利回り証券(債券)の投資妙味が減退するなか、リスク資産(株式)にマネーが染み出す「過剰流動性相場」が続いています。

 一方、世界のG20(20カ国・地域)はパンデミック対策で総計約10兆ドルの景気刺激策を投資しました(WHO推計)。ワクチン開発の進展と事前調達(量産前の確保)に関する報道が相次いだことも株高要因となっています。

 MSCI世界株価指数は7月21日に50日移動平均線が200日移動平均線を上抜けるゴールデン・クロスを形成し強気相場を確認しました(図表1)。

 なお、「世界経済サプライズ指数」の改善が続いている状況にも注目です。米・中・欧の経済指標の発表値がおおむね「予想よりも良かった」や「予想ほど悪くなかった」が続いている傾向を示します。

 米アトランタ連邦準備銀行が毎週発表している「GDPナウ予想」は、今四半期(7-9月期)の実質成長率が「+20%」に急回復すると見込んでいます。

 景気敏感株やエネルギー株の買い戻しで、8月6日にゴールデン・クロスを形成していた米ダウ平均も戻り高値を再び更新。こうしたリスク選好が為替相場でのドル安・円高一巡感に繋がり、日経平均株価は再び2万3,000円を突破する動きとなりました(13日)。

<図表1>世界経済サプライズ指数が急上昇している

*世界経済サプライズ指数=Citigroup Economic Surprise Index-Global
(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019年7月初~2020年8月12日)

米中対立の緊張化は香港市場と日本市場のリスク要因に

 一方、米国と中国の政治的・外交的緊張を受け、香港市場のセンチメントが7月以降悪化した状況には要警戒です。図表2は、米ダウ平均、香港ハンセン指数、日経平均の推移を示したものです。

 米ダウ平均が3月以降の戻り高値を更新した一方、日経平均の上値が重い要因として「香港を巡る不透明感」が強くなったことも挙げられます。ポンペオ演説(7月23日)を契機に、米国は中国共産党政府に対する強硬姿勢を色濃くし、米中対立が思わぬ「激突」に発展する事態を市場が警戒しはじめた感があります。

 中国は香港の政治的統治にかかわる「一国二制度」を事実上撤廃。「香港国家安全維持法」を成立させました(6月30日)。米中両国は互いの総領事館(米国はテキサス州ヒューストン、中国は四川省・成都の領事館)の閉鎖を命じ、香港では多くの民主化運動指導者が逮捕されました。

 米国は「台湾旅行法」(2018年成立)にもとづき、政府高官(厚生長官)を台湾に派遣。中国が主張する「核心的利益」を挑発する事態となっています。

 米中双方が「ルビコン川」を渡るような応酬を繰り返すことで、「緊張」が「危機」に一段と悪化するか否かを注視すべきでしょう。

<図表2>「米中対立リスク」を警戒する香港市場に注意

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019年7月初~2020年8月12日)

 米国政府は国内の通信、アプリケーション、クラウド、ケーブル事業に関し中国企業の関与を防ぐ措置を決めました。

 トランプ大統領は、ティックトックや微信(ウィーチャット)が「米国の安全保障上の脅威」となるとし、米国人・米国企業に対し使用を禁止する行政命令に署名。米中関係の悪化とその影響は、同盟国・日本のサプライチェーンや業績見通しのリスクになり得ます。

 こうした強硬策を、コロナ危機で悪化した対中世論を利用したトランプ大統領のパフォーマンスとの見方もあります。一方、対立激化で自らの経済が被るリスクを意識するかのような中国の抑制的姿勢も感じられます。

「駆け引き」にとどまるうちは不安材料ですが、米・中・日の企業活動に与える事案が顕在化すると、投資家のリスク回避姿勢を促す展開となり、短期的にせよ株価調整要因となる可能性も否定できません。

大統領選挙でトランプが巻き返し?隠れ支持者、今回は?

 米大統領選挙まで3カ月を切った段階で、トランプ政権の対中強硬姿勢を反映して「当選予想確率」はやや変化しています。図表3は、民間調査会社が支持率動向や環境変化をもとに試算している「当選予想確率」の推移を示したものです。

 8月17日から開催される民主党大会で大統領候補指名が内定しているジョー・バイデン候補(元副大統領)はトランプ候補(現職大統領)に対し優勢を維持しています。

 トランプ大統領は、新型コロナへの対応の遅れ、経済的な影響(重傷者・死者数の増加と失業率の上昇)、BLM(人種差別反対)運動への強硬姿勢、相次いで出版された「暴露本」の影響で6月以降は「劣勢」が鮮明となりました。

 ただ、自らの選挙対策本部長を交代させた7月15日直後からは挽回に転じ、「当選予想確率の差」をやや縮めています。今年の選挙は、新型コロナウイルス、ワクチン開発、雇用情勢、人種差別運動など例年の選挙前と比べ不確定要因が多い状況です。

 2016年の大統領選挙で顕在化した「隠れトランプ支持者」(支持率調査で表面化しなかった潜在的なトランプ支持者)の激戦州での投票行動も注目されています。

<図表3>大統領選挙に向け「トランプの巻き返し」は続くか

(出所)PredictItより楽天証券経済研究所作成(2020年4月初~8月12日)

バイデン氏の副大統領候補…「ハリス旋風」の影響は?

 こうしたなか、バイデン候補は「ランニングメイト(副大統領候補)」に黒人女性のカマラ・ハリス上院議員(55歳)を起用すると発表しました(11日)。

 ハリス氏の父親はジャマイカ系、母親はインド系移民です。カリフォルニア州で検察官や司法長官を務めた後、同州の上院議員に選出。昨年の民主党・大統領候補指名争いに名乗りを上げ「女性版オバマ」(中道派)と有力視されました。

 ハリス氏は昨年末の大統領候補者討論会でバイデン氏の上院議員時代の政治姿勢を批判した経緯があり、「バイデン氏はハリス氏を副大統領候補に指名する寛容さを示せるか」も注目されていました。

 ハリス氏は「有色人女性で初の女性副大統領」、「次の民主党大統領候補」をアピールする資質を備え、バイデン氏は「(ハリス氏は)恐れを知らない闘士で、米国における最良の公僕の一人だ」と称賛しました。

 5月25日に発生した黒人男性死亡を発端としたBLM運動が広まるなか、民主党内では多様性を訴求し、人種対立を融和する効果を見込み「非白人女性の副大統領候補起用」に期待が高まっていました。高齢(77才)を指摘されるバイデン候補を支える「カマラ旋風」の投票行動への影響が注目されます。

 トランプ大統領は今回の決定にやや動揺。ツイッターで「いかさまハリス」とつぶやくほど「強敵」と感じたようです。図表4では、大統領選挙同日に実施される上院議会・下院議会選挙に関する予想確率の推移です。

 コロナ禍とトランプ劣勢の影響で、「民主党が下院選挙だけでなく上院選挙でも勝利する(議席の過半を得る)」と見込まれています。米中対立の緊張リスクに加え、今秋の米国市場は「ポスト・トランプ(民主党政権誕生)」を巡る不確実性に直面して乱高下する可能性があり警戒したいと思います。

<図表4>議会選挙結果を巡る予想確率で民主党が優勢

(出所)PredictItより楽天証券経済研究所作成(2020年4月初~8月12日)

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