パンデミックの中の市場の狂気

 以下はNYタイムズのポール・クルーグマンのコラム『パンデミックの中の市場の狂気―なぜ投資家は慌ててジャンクを買うのか?』の抜粋である。

Market Madness in the Pandemic Why are investors rushing to buy junk?
パンデミックの中の市場の狂気 なぜ投資家は慌ててジャンクを買うのか?(6月15日 NYタイムズ ポール・クルーグマン)

 この数年が経過し、Hertzは再びNo.1になった。市場シェアではない:そのレンタカー会社はEnterprise(レンタカー会社)に程遠く引き離されて2位だ。しかし、Hertzは、Covid-19のこの時代に株式市場を席巻した狂気を象徴するナンバー1の見せ物となっている-その狂気はものすごく害となる。その理由は株価自体が重要だからではなく、ドナルド・トランプと彼の手下が株式市場を彼らの成功の尺度とするからだ。

※Hertz Global Holdings Inc(ハーツ・グローバル・ホールディングス)は米国のレンタカー事業持株会社。子会社を通じて、「ハーツ」「ダラー」「スリフティー」「ファイヤーフライ」の事業所名で米国内外で乗用車、クロスオーバー車、軽トラックを貸し出す。また、商用トラックのリース、車両管理サービスのほか、産業機器や建設機械のレンタルを行う。本社はニュージャージー州。

 Hertzについて:先月、大きな負債を抱え、パンデミックの中で事業が急落した同社は、チャプター11を申請した。これは、債務再編を行いながら会社を運営し続ける倒産の一形態だ。

 チャプター11を申請した企業はしばしば生き残るが、その株主は通常すべて投資金を失う。だから、Hertz株は多かれ少なかれ価値がなくなるべきだった。

 確かに、Hertzの株価は2月の20ドル以上から6月上旬には1ドル未満に下落した。しかし、その後、変なことが起こった:投資家は突然、株式に資金を積み上げ、株価は500%以上押し上げられた。そして、Hertzは -破産中なのだが!- 更に株式を発行して資金を調達する計画を発表した。

 Hertzの物語は、より広範な現象の一例に過ぎなかった。5月中旬から木曜日の突然の急落の間に起こった株価の上昇は、かなりの部分、非常に疑わしい企業群に慌てて投資した投資家によってもたらされた-ある業界ウォッチャーは「がらくたへの逃避」と呼んだ。

ハーツ・グローバル・ホールディングス(日足)

出所:石原順

 株式市場は実体経済とはあまり相関がないが、最近は実体とはほとんど相関が無いようだ。

 ロバート・シラー、これらに関する世界有数の専門家は、資産バブルは、事実上、自然発生したポンジスキーム(ねずみ講的な詐欺のスキーム)だと指摘している。最初の投資家は、その後で投資した投資家によって株価が上がり、その結果、もっと多くの人が株式を購入するので投資収益を得る。宴は何かが新しいお金の流れを遮断するまで続き、突然すべてがクラッシュする。

 そして今、バブルは破裂している可能性がある。しかしそんなことはどうでも良い。

「政府はいつでも、パーティーには遅れてやってくる。彼らが起こった問題に対処しなければ、同じことが再び起こる可能性がある。

 一方、彼らは安全を過信し、大きな危機がふたたび発生することはないと思っている。もちろんそんなことはない。次の危機はまったく違った形で起こり、同じ規模で発生する可能性があるのである。

 同じように、1つのイベントのリスクをなくし、それによって将来的なリスクを避けることはできない。それでは解決にならない。重要なのは真のリスクを理解し、きちんと管理することである。リスクが大きすぎるのであれば、ポジションを小さくせよ。」

 と、米著名投資家のペリー・カウフマンは述べている。目先の流行に飛びつくマイオピック(近視眼的)な投資をしていると、高い授業料を払うことになるだろう。