ギャンブルの予算化

 ギャンブルに使うお金をどのように管理するかは、重要な問題だ。

 目下(もっか)、国内にはカジノがないし、カード・ゲームなどで多額の現金を賭けることは違法行為だ。また、筆者の場合、ネット証券に勤務しているので、株式のデイ・トレーディングやFXのようなギャンブル性の高いゲームに参加する事ができない。こうした事情の下、筆者が現実に参加しているギャンブルは競馬だが、筆者は馬券代を、「投資」ではもちろんなく、「教養娯楽費」だと考えている。

 ただし、この教養娯楽費の管理の考え方は、投資に似ている。理由は、以下のようなものだ。

(1)平均的に控除率分だけ負けると考えて、毎月の負けの期待値が分不相応でないか検討する。
(2)月間に全て負けた場合の最大損失が家計に影響を与えないかを検討する。

 大まかに言うと、「期待リターン」と「リスク」で、適正な馬券代を考えている。

 JRAの競馬は土曜日と日曜日に開催されている。平均して月に8日間の開催。例えば、一日に1万円馬券を買うことについては、一月に2万円負けると見てこの費用が楽しみに見合うか、自分の家計にとって分不相応でないかを検討し、一月に最大8万円負けることで家計に問題がないか、と考える。「損は嬉しくないけれども、まあ大丈夫だ」ということなら、この程度・この範囲内の馬券を買っていいということだ。

 一日の馬券で、平均2,500円損をする計算で、交通費等も含めて映画を一本観るくらいのコストだが、それに十分見合うくらい競馬を楽しめているならそれでよいと考えるのだ。

 しょせん、馬も自分の判断力も全幅の信頼をおけるものではないので、競馬で「大勝負」はしない。むしろ、少額の賭け金で自分の心理の揺れまで観察する事ができれば、「楽しみとして、儲かった」というくらいに考えることにしている。

  なお、筆者の馬券戦略及びその考え方については、いずれ機会があれば「トウシル」にも書いてみたいと思っているが、JRAが発行している月刊誌「優駿」に連載原稿を書いているので、読んでいただけたらありがたい。

 筆者の競馬の通算成績はもちろんマイナスだ。ただし、控除率ほど負けていないはずなので、投資で言うと「市場平均」に勝っている状態ということになり、結果には満足している。

 冒頭のハワード・マークス氏のメモには、「判断の妥当性は結果からは分からない」という重要な洞察が紹介されている。簡単な例を挙げると、株式投資であなたが何度か儲かったからといって、必ずしもあなたが用いた投資方法が妥当であることを意味しないということだ。株式投資の自慢話をする投資家には、しばしばこの原則が分からない人がおり、話を聞いていると辟易する。「判断方法の妥当性」は、大いに用心深く多方面から検討しなければならない。

 ギャンブルは投資よりも繰り返しの頻度が高いので、上手く嗜むと、こうした大人の洞察を早く得ることができる(かも知れない)。

 最後に、ギャンブルに臨む上で、また投資について深く考えることができる点でも必読の本を紹介しよう。エドワード・O・ソープ「天才数学者、ラスベガスとウォール街を制す(上)・(下)」(望月衛訳、ダイヤモンド社)をお勧めしたい。数学とギャンブルの天才の自伝だ。

 ソープは、数学者でかつ運用会社の経営者として株式市場(特に日本のワラント市場)に参加した人だが、ブラック・ジャックのカード・カウンティング法の考案者でもある。ギャンブルの世界の聖者を一人だけ挙げろと言われたら、筆者は彼を推す。彼は理論をギャンブルやマーケットの世界で徹底的に実践した人だ。

 本文を読むと、ブラック・ショールズの公式を故・フィッシャー・ブラック氏よりも先に独力で導いていたようだが、彼は、論文を書いて自慢することよりも、その式を含む理論をマーケットでのトレーディングで使うことを選んだ。ノーベル経済学賞よりも、ギャンブルの実践の方が彼には大切だったのだ。崇高なギャンブラー魂の持ち主だと言えよう。大いに学ぶべし!