ギャンブルと投資の近似点

 ただし、ギャンブルなら何でもいいという訳ではない。ハワード・マークス氏の言うように、情報・運・技能のいずれも絡むゲームでなければならない。簡単に言うと、頭を使う甲斐(かい)のあるゲームでなければならない。そうしたゲームであれば、たいてい何らかの点で投資と接点がある。

 例えば、プレイヤー同士が対等に戦うポーカーのようなカードゲームは、投資家どうしがポートフォリオの運用成績を競うファンドマネジメントと構造がよく似ている。プレイしている人々とその行動全体をゲームとして捉える思考習慣があると、「ライバルの平均を持つ運用」が競争上有利な戦略であることが分かるだろう。

 アクティブ運用に対してインデックス運用が有利なのは、よく学者が言うように「市場が効率的だから」ではなく、「ゲームの戦略として有利だから」ということがゲーム的思考を通じて分かる。

 また、多くのカジノゲームでは、親やハウス(カジノなどギャンブルの主催者側のこと)が取る「テラ銭」(ギャンブルの手数料)がいかに重い負担になるかを実感するが、この実感は、株式投資の戦略を考える上で参考になるし、FXのような一見投資に近い別種のギャンブルが儲かりにくいことの洞察にもつながる。

 また、馬券の種類にもよるがテラ銭の重さは致命的だが(おおむね25%がJRAによって控除される)、競馬のようなゲームでは、情報がオッズに反映するマーケット的な構造が組み込まれていて、単に勝率の高い馬を探すのではなく、勝率に比してオッズが有利な馬を選ばなければならない点が株式投資などとよく似ている。

 成長性が高く経営内容の良い会社でも、過剰な人気が織り込まれた株価で投資すると不利な投資になるし、逆に、内容の悪い会社でも、株価が十分以上に下がっているなら有利な投資対象になり得る。競馬にあっても、同じ内容の思考が必要だ。

 また、いかなるギャンブルでも、チャンス(有利な状況)で攻めて、ピンチ(不利な状況)で守るような抑揚の付け方が大切であり、「心の揺れ」に対するものも含めて自己コントロールが必要な点は投資と共通だ。ギャンブルは、投資にあって必要な心理の制御の良いトレーニングの場でもある。

 そして、ギャンブルは、物事が必ずしも自分の思い通りにならないことや、損失に耐えることのトレーニングの場ともなり得る。

 ギャンブルの種類によって、投資との共通点の在り処は異なるが、真剣に、しかしほどほどに楽しむギャンブルは、同時に投資のトレーニングにもなり得る側面を持っている。

 日本でのカジノ解禁は、賛否両論あるが、筆者は期待している。ただし、もちろん、カジノ関連ビジネスが利権化するようなことは望ましくないし、ギャンブル依存症への対策も重要だ。そして、何よりも、「ギャンブルとは、このような仕組みのもので、基本的に儲かるものではない」という教育的啓蒙を繰り返し国民に対して行うことが重要で意義深いと考えている。

 なお、世間で話題の「カジノの経済効果」については、個人的には「どうでもいい」というくらいに考えている。