サウジは減産延長のため駆け込み増産を実施!?市場は延長を期待し60ドルを試すか?

 イランの妨害が発生する可能性があり、総会自体が今年2019年6月の総会の時のように、スケジュールが変更になったりする可能性があります。

 しかし、当のサウジは以下のとおり、過去、そうであったように、減産実施前の行動である“駆け込み増産”を実施しているとみられます。

図:サウジの原油生産量 

単位:千バレル/日量
出所:OPECのデータより筆者作成

“駆け込み増産”とは、筆者の造語で、減産を開始、あるいは削減幅や実施国などのルールを変更して減産を延長する場合、開始・延長開始をする数カ月前から、減産の基準となる生産量を引き上げるために一時的に増産をすることです。

 多くの場合、減産開始後に“駆け込み増産”を開始する直前までの水準に生産量を戻す(減らす)だけで、減産順守が可能です。

 サウジの原油生産量について、今月のOPEC月報で、OPEC以外の外部の組織が公表したデータをもとにして作成された2次情報源(secondary sources)ベースではなく、自己申告(direct communication)ベースで、“駆け込み増産”と思しき、生産量の急増が確認されました。

 2019年9月に発生したサウジドローン事件によって、同国の原油生産量は大きく減少しましたが、その後、V字回復しました。

 V字回復の折、回復以上にみられた生産増加分が“駆け込み増産”にあたるとみられます。事件後の生産回復を口実に、減産延長を前提にした増産をしたわけです。また、自己申告ベースで大幅増加したということは、増加をアピールする意図があったと考えられます。

 2次情報源ベースで大幅増加にならなかったのは、減産期間中にサウジの原油生産量が急増すれば、市場のムードを悪化させかねないという、市場への情報源による忖度(そんたく)があった可能性があります。

 サウジが“駆け込み増産”を実施していることをアピールする理由は、駆け込み増産を行うことは、後に、ルールを変更した上で減産を延長することを示唆するため、と考えられます。

 イランの妨害の懸念はあるものの、会合当日まで順調に事が運べば、12月の会合で来年4月以降の延長決定、あるいは前回の「OPEC総会直前レポート!米シェール生産増加は、OPEC減産継続の最大の動機?」で述べたとおり、来年2020年の2月か3月に臨時総会を開催することを決定する(その時に延長を決める)、ことになると筆者は考えています。

 サウジが行っていると推測される「駆け込み増産」という減産延長に向けた準備は、原油価格を上昇させ(少なくとも下落させない)、アラムコのIPOを確実に成功させるための準備と言えます。

 減産延長決定は、原油相場にとってはプラス材料と考えられます。減産延長決定、あるいはそれに準ずる期待を高める要人の発言が出れば、短期的に、原油相場は60ドルを試す展開になると筆者は考えています。