なぜこのタイミングでサウジアラムコのIPOを実施するのか?

 改革にはお金がかかります。そのお金を調達することもまた、ゴールを達成するために必要な手段であるため、経済に関わる柱、戦略的目標に厚みが出るのはごく自然のことと言えます。

 2016年4月に改革の内容が公表された際、サウジの国営石油会社「サウジアラムコ(以下、アラムコ)」のIPO(新規株式公開)について言及がありました。5%未満の株式を公開して資金調達を行うとのことでした。

 このアラムコのIPOが、なぜ今、動き出したのでしょうか? それは、2030年を期限とする「ビジョン2030」のスケジュールに遅れを生じさせないためだと考えられます。以下は、「ビジョン2030」のスケジュールです。

図:サウジの「ビジョン2030」のスケジュール

出所:「ビジョン2030」の公式サイトより筆者作成

 公式サイトによれば、2016年4月に提唱された「ビジョン2030」は、2030年までのおよそ15年間を3つの期間に分けてゴールを達成しようとしています。冒頭で述べた、近年のサウジにおける市民生活の変化は、「基盤を築く」段階にある「ビジョン2030」が、実践されているために起きていることと言えます。

 改革序盤の「基盤を築く」は、サウジ国内外ともに「ビジョン2030」が進行していることを広く宣伝をしつつ、市民生活に具体的な変化を生じさせながら改革のムードを醸成したり、改革に必要な資金調達に具体的な目途を立てたりする時期と言えます。

 現在(2019年)は、「基盤を築く」段階の終盤にあたります。2020年以降の「成果を高める」の段階に入る前に、資金調達の面で具体的に戦略を進めておく必要があります。アラムコのIPOの話が進展したのはこのような、「ビジョン2030」全体のスケジュールに差し迫った感があったことが要因とみられます。

 スケジュールに差し迫った感が生じた中、今年9月に、アラムコの会長にサウジ政府の資金管理を担うPIF(公共の投資基金)のトップに、ソフトバンクグループや米ウーバーの取締役を務める“アルルマヤン氏”が就任しました。この人物は、世界中の企業と接点がある、資金調達のプロのような人物です。

 そして、同じ月にサウジのエネルギー大臣が王族出身者に交代しました。複数の要職の人事交代で、IPOの話が本格的に進み始めました。それまで何度も延期をし、昨年10月の記者殺害事件でとん挫した、と言われながら、足掛けおよそ4年で、何とかサウジ国内市場(タダウル市場)への上場を実現しようとしているわけです。