「サウジアラムコ」とはどのような会社か?

 アラムコはサウジ東部、ペルシャ湾岸のバーレーンの近く、ダーランに本社を置く世界最大級の石油会社です。同社の原油生産量、原油輸出量、原油埋蔵量は世界最大と言われています。

 アラムコという会社名は、アラビアン・アメリカン・オイル・カンパニー(Arabian American Oil Company)の略称と言われています。サウジの国営石油会社でありながら、そのルーツに米国の石油会社が存在するためです。

 1930年代に米国の石油会社スタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア(現シェブロン)の子会社(カソック)がサウジでの石油の利権を獲得し、その後、テキサコ(現シェブロン)と合弁で、ダーランで油田を発見し、開発を本格化させました。その後、カソックはアラビアン・アメリカン・オイル・カンパニーに社名を変更し、アラムコの名前が誕生しました。

 その後、スタンダード・オイル・オブ・ニュージャージー(現エクソンモービル)と、ソコニー・ヴァキューム・オイル・カンパニー(現エクソンモービル)が参画し、「アラムコ4社」が誕生。1988年にサウジ政府が権利を引き継いだことで、サウジの国営石油会社「サウジアラムコ」が誕生しました。アラムコのルーツは、エクソンモービルやシェブロンという米国の石油メジャーと同じ、米国資本の石油会社だったわけです。

 このアラムコは、売上高3,600億ドル、純利益1,111億ドル(ともに2018年)の巨大企業です。純利益ベースでは、米アップルの2倍、米石油メジャーのエクソンモービルの5倍以上と言われています。

 時価総額はおよそ1兆6,740億ドルとみられます(1株=8.37ドルで計算)。サウジ国内市場で売り出す予定の30億株(全体の1.5%)でおよそ243億ドルから259億ドルの調達が見込まれます。

 なお、「ビジョン2030」が提唱された際に公表された発行済み株数に対するIPOの割合が5%の場合、837億ドルとなり(1株=8.37ドルで計算)、「ビジョン2030」でゴールの一つとしている資金額、およそ1兆6,740億ドルの4.4%にあたります。

図:アラムコのサウジ国内市場でのIPOの概要と時価総額

※1:最終的な売り出し価格は12月5日に決定予定
※2:1株=31リヤルまたは8.37ドルで計算
出所:各種資料をもとに筆者作成

 アラムコのIPOによる資金調達は、「ビジョン2030」の3つの柱のメインとみられる「繁栄する経済」における最重要戦略であり、かつ「ビジョン2030」全体を資金の面で支える重要な戦略といえます。

 12月はサウジ国内市場ですが、来年以降、ニューヨークやロンドン、香港、そして東京などで上場する可能性があると言われています。

 また、アラムコはサウジ全体における原油と天然ガスの生産、埋蔵量の大部分を占めています。

図:アラムコのサウジ全体に占める石油・天然ガスシェア

出所:海外通信社およびOPEC(石油輸出国機構)のデータより筆者作成

 この推計によれば、いずれもアラムコのシェアが高い、特に原油生産量、原油埋蔵量、天然ガス埋蔵量の3つにおいては、アラムコとサウジがほぼイコールであることが分かります。

 残念ながら、(おそらく公表しなくなったと考えられますが)2017年以降のアラムコのデータは海外通信社の情報端末で確認することはできませんでした。

 とはいえ、これらのシェアが急減するほどの規模が大きい新しい石油会社が、サウジ国内で活動を始めたとの報道を耳にしていないため、現在も、2016年までと同様、これらの4項目については“アラムコ≒サウジ”という構図が続いていると考えられます。

 また、以下はアラムコの売上高の内訳です。

図:アラムコの売上高の内訳(2018年)

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 アラムコの収益の多くは、「サウジ国内における」「原油の生産」によるものです。それらのシェアの高さから、アラムコはサウジという国そのものといっても過言ではありません。その意味では、アラムコが上場する、ということは“国が上場する”ことに他ならないと筆者は考えています。