中東と米中、トランプ米大統領が作った2大材料が足元の上昇要因の源

 以下の図は、足元の金相場を取り巻く環境のイメージです。中東情勢の悪化、米中貿易戦争の激化、という2大要因の上には“トランプ大統領”が鎮座しています。

 図:足元の金相場を取り巻く環境

出所:筆者作成

 図の下段に、「有事ムードの高まり(有事)」「中央銀行金保有高増加(中央銀行)」「代替通貨を物色する動きが強まる(代替通貨)」「代替資産を物色する動きが強まる(代替資産)」と4つの要素を入れました。

 灰色で塗りつぶした通り、「主要株価指数 軟調」→「代替資産を物色する動きが強まる」という線は、今後、現実のものとなる可能性は否定できませんが、現在は見られません。

 現在上昇要因として作用していると見られる「有事」「中央銀行」「代替通貨」という3要因は、先述の「中東情勢の悪化」「米中貿易戦争の激化」とい2大要因から生まれたもので、これらの2大要因を生んだのは、「トランプ大統領」という構図が浮かび上がってきます。

 有事については、以前のレポート1970年代、「有事の金」で金が急騰!で述べたとおり、複数の材料が絡み合うようになった昨今、影響力は低下したとみられるものの、引き続き金の変動要因の中に存在し続けています。今は、有事が起これば金価格が上がる、という単純な時代ではないため、あくまでも有事は金の変動要因の一つ、と認識する必要があります。

 中央銀行については、以前のレポート金相場変動で分かる世界の風邪引き状況、金価格変動要因を分析で、中国の中央銀行の保有資産のシフト(米国債→金)やロシアの中央銀行の金保有増加について書きましたのでご参照ください。欧州の中央銀行の売却量を超えて、中国やロシアの中央銀行が買っています。

 また、代替通貨については、米国の通貨ドルの金利が下がる観測が強まると、米ドルを保有する妙味が低下し、相対的にドルと同じ世界の通貨の側面を持つ金を保有する妙味が向上する傾向があります。足元、米国国内では利下げ(ドルの目標金利水準の引き下げ)に向けて現実的な議論がなされているため、ドルに先安観が生じ、金が買われやすくなっているといえます。

 材料を俯瞰すれば、“偉大なアメリカ”を復活させることを目指し、来年の大統領選挙に勝利することを目論むトランプ大統領の施策が、結果として金価格を押し上げていると言っても過言ではないと、筆者は考えています。中東地域への支配力を強めて情勢を悪化させ、中国に貿易戦争をけしかけて貿易不均衡の是正を目指しながら、世界の中の米国の立ち位置を向上させ、なおかつ利下げ実施観測で自国内の株価を上げて景気の浮揚感を醸し出そうとしているのです。